この作品はまさかの樋口視点で再び展開!!途中分岐もあるかも・・・?
「待たせたな・・・樋口」
「あ、黒崎・・・・来て、くれたんだ?」
実際のところ約束は交わしたものの、こうして彼の姿を見るまで半信半疑だった樋口の言葉に、ムッとしたのか壱哉が憮然とした面持ちで言った。
「人を呼び出しておいていい度胸だな・・樋口。わざわざ新との約束をキャンセルして来てやったのに・・・」
――え![]()
壱哉の言葉になんとなく厨房を伺いながら、樋口は彼の言葉を吟味した。
どうやら壱哉は恋人の新少年と昼を一緒に摂るつもりだったらしい。
横入りしてしまった心苦しさを感じながらも、厨房から転じて壱哉の顔色を伺う樋口の眼差しを気に掛けるでもなく、壱哉は妙にそわそわしている様子でやはり厨房を伺っていた。
―――あ、もしかして
壱哉のお目当ては端から自分ではなく猫耳少年だったのだろうことを察した樋口は、改めて落胆を感じた。
そしてそこでまた同じ疑問にぶちあたり逡巡することになったのだが、あえてそ知らぬふりでしばらく傍観者に徹することに決めた樋口が、こっそりと壱哉の様子を伺っていると盆を手にした新少年が厨房の奥から姿を現したのだった。
―――あれ![]()
はたして己の考えた通りならばどんな修羅場になるものかとはらはらと一人気をもんでいた樋口は肩透かしを食らう羽目になった。
「いらっしゃいませ~・・・・なんだ、エプロン兄ちゃんの待ち合わせ相手って黒崎さんだったのか~・・・すっかりこの店が気に入ったみてぇだなあ。・・・大将、留守だけど・・・俺、頑張るからさ・・簡単なものしか作れねえけど・・あ、そだ・・・これ、焙じ茶な」
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(エプロン兄ちゃんって・・さっきまで樋口さんだったのに?)
先ほどのぎこちなさはどこへやら・・だった。もっともこの面子で今更緊張する方が妙だったが、新少年は落ち着いた様子でてきぱきと茶を二つ置くと、壱哉へと向き直った。
「黒崎さんはなんにする?」
するとそれまで退屈そうにしていた壱哉が無言のままじっと新少年を見つめた。
その真剣な眼差しに、盆を抱えた新少年は切なげに唇を噛みしめ目じりに朱が走ったのを樋口が見逃すことはなかった。
―――やっぱり、この子って・・・まさか、黒崎・・・![]()
固唾をのみながら見守る樋口の前で、壱哉は新少年の目を見つめたまま言った。
「・・・お前の作ったオムライスが食べたい」
―――はい![]()
一瞬なにかの聞き間違えだと樋口が思ったのも無理はなかった。
何故ならこの店は和食屋だからだ。
いくら壱哉が常連になったとはいえ、無茶ブリにもほどがあるというものだった。
「・・・おいおい、黒崎~無茶言うなよ・・・ごめんね~、こいつ世間知らずだから
」
壱哉をたしなめ、新少年にそれとなく執成す樋口に対し、気分を害したのかムッとした面持ちで壱哉がジロリとこちらを睨んだ。
「常連の言葉とは思えんな樋口。バカも休み休みに言え『オムライス』はこの店の立派な裏メニューだぞ」
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――裏メニューですと![]()
思わぬ言葉に胡乱な眼差しを投げかける樋口に、メニューを突き付けた壱哉の指が指示した先には・・・
―――あ![]()
そこには確かに『オムライス』の文字があったのだった。
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この店の常連になってからというものメニューを見たことなどなかったことを反省しながら、まじまじとメニューをガン見していた樋口の口から諦念のため息が一つもれたのは言うまでもない。
「・・・どうだ、納得したか?」
「・・・・した」
どこか勝ち誇ったように言う壱哉をチラリと見やった樋口は、言葉短く返答すると改めて新少年を伺った。
「・・・オムライス一つね。俺一人だからちょっと時間かかるかもわかんねえけど・・・いい?」
「・・・ああ、お前の作ったオムライスが食べられるなら構わない」
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まるで愛の告白めいたセリフに、呆れたのか新少年は火照った頬を隠すように「ん」と短く返答すると踵を返しさっさと厨房へと引っ込んでしまった。
そそくさと逃げるように去ったその後ろ姿を見送った樋口は、頬杖をついたままため息を漏らすと、やはり名残惜しげな面持ちで少年の姿が消えた厨房を見つめる壱哉をねめつけた。
実際のところ、壱哉への一連の想いが消えたわけではなかったが、壱哉の中で友人としての立場を確保できたことで樋口は充分に満足していた。
自分でも不思議だが目の前にいる気もそぞろな壱哉を見ても思ったほどの落胆はなかった。
(・・・でも・・ま、黒崎にあんな熱い眼差し向けられんのって・・・ちょっと羨ましいかもな)
それでも少しだけ羨望を感じながら、今日来てくれた礼を延べようと樋口が口を開いた瞬間だった。
ガチャーン
厨房の方から派手な音が聞こえてきた。反射的に立ち上がった樋口を制するように壱哉が動いた。
黒崎はどうするんだろう!?