この作品は、河原で山口親子を見送った直後の主従(魔王&従魔あらたん)のお話です。
「・・・・行っちゃったな。・・でもさ、これで良かったんだよな」
元々異世界の住人であったからこの先彼らと邂逅することなど恐らくないのだとわかっていても、やはり一抹の寂しさは拭えなかったようだった。
「ああ、一日一善できたじゃないか。・・・お前は彼らの魂を救ったんだ、満足か?」
魔王の伴侶でありながら、人の心に重きを置く従魔を抱き寄せながら問いかけると、新が少し不安そうな面持ちのまま上目づかいでこちらを見つめた。
「・・・・怒ってる?」
立場を自覚するゆえの葛藤を持つ新に、魔王は苦笑をもらした。
「こら、こういう場合は『ありがとう』でいい。例え不本意であっても惚れた奴の意に沿うのも恋人の務めだからな。それに・・お前は俺の良心だろ?」
『俺があんたの良心でいてやるっ・・・もしあんたが道を踏み外しそうになったらぜってー俺が引き戻してやっから!』
新の脳裏に浮かんだのは、かつて従魔になった時に壱哉に誓った己の言葉だった。
あの時の自分にできるせめてもの矜持が言わせた言葉だった。だがその決意を壱哉は忘れないでいてくれたらしいことが嬉しかった。
魔王となった後も恋人には甘い壱哉の情深さに改めて幸せを感じながら新は囁いた。
「うん・・・・ありがと。・・・黒崎さん、今日は来てくれて嬉しかった」
魔王の身でできることなど限られていたとしても、約束を守りささやかな善行を施すことを許してくれる壱哉に温かく気持ちがほころぶのを感じながら身を寄せた新の身体を魔王はしっかりと抱きしめてくれた。
「・・・・・・黒崎さん・・・俺にあんたの時間くれる?」
触れ合う温もりに切なさが込み上げるのを実感しながら尋ねる新の甘い誘惑に、魅了された魔王は即答した。
「・・・・もちろんだ。俺の時は常にお前と共にあるんだからな。・・・今夜は呼んでくれて嬉しかったぞ、新」
離れていた時間に心の内に積もった寂しさが消えて行くのを感じながら、新は心からの笑みを浮かべた。
「・・・へへ、大好きだぜ黒崎さん!そうこなくっちゃな」
魂を共有する唯一無二の伴侶となった恋人達は、満点の星空の下束の間のロマンスに身をゆだねた。