「・・・で、なにか考えがあるのか?新」
取引をするため人の持つ欲望を把握する能力は秀でているつもりだったが、無欲とまではいかずともささやかな現状に満足している親子を前に、何を与えればよいのか思案する魔王に新はなんでもないことのように提案した。
「あるぜ?・・ほら、一也も元気になったことだしさ・・・打ち上げ花火なんていいんじゃないかなあ。たぶんこれまでは花火とか無理だったと思うしさ。ここなら黒崎さんの力で花火、出せるだろ?」
慎ましいながらも逞しい新の答えは派手好みの壱哉を満足させるものだった。
「・・・悪くない・・・どれ」
魔王の力が発動した瞬間、上空を覆っていた雲がするすると幕のように引き、再び満点の夜空が顔を出した。
変化する気象に驚嘆の声を上げる人々の見守る中、星の輝きにも負けじとばかりに
大輪の花火が天高く打ちあがったのである。
ドーン
轟音を轟かせ、華やかに咲き誇る花火の演出に驚いた人々から歓声が上がる中、壱哉に寄り添いながら新は少し離れた所から見物する山口親子の様子をそっと窺った。
初めて間近で見る花火の迫力に一也は食い入るような熱い眼差しを向けていた。
初めこそドンッと轟音がするたびにビクッと身を竦めたものの、圧倒するように迫る美しく夜空を彩る花火にすぐに心を奪われてしまったようだ。
しかし背が低いため視界を人影に覆われてしまうらしく、もっと見たいとせがむ一也を肩車してやる山口の姿が見て取れた。
そんな健気な親子に目をくれた魔王が、余興とばかりに気まぐれに指を鳴らすとさらなる演出が饗されることとなった。
なんと川面が鏡面のように光り輝き、夜空の花火が鮮やかな色彩のまま映り込んだのである。
「ほら、一也川を見てごらん。お空の花火が映っててキレイだねえ」
「ほんとだ~すご~い!!・・・色んな色がキラキラはじけてるみたい!」
山口が肩に乗せた息子に水面を指しながら楽しそうに交わす会話に耳を傾けながら、肩を抱き寄せる魔王の温もりのもたらす心地よさに新はそっと目を閉じた。
やがてクライマックスとばかりに一斉に打ち上げられた花火が星空に拡散した後、再び静けさを取り戻した夜空は優しい光を放つ星々のものとなったのだった。
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ショーはお開きとなり徐々に捌けてゆく人々の影もまばらになり、やがて二組の影だけが河原に取り残された。
息子の手を引きながらこちらの方へとやってくる山口の顔からは先ほどまで確かにあった憂いは綺麗さっぱり消えていて、新を安堵させた。目線を下ろすといまだ興奮冷めやらぬ様子の一也の姿があった。
「一也、花火・・・楽しめたか?」
一目見ればわかったが、あえて聞いてやると一也は弾んだ声で言った。
「うん!僕、花火をこんなに近くで見たの初めてだったけど、お父さんが一緒だったから怖くなかったよ。・・お父さんは?」
迷子にならぬようにしっかりと息子の手を握っていた山口だったが、きゅっと父の手を握りしめながら真剣な面持ちで花火を見上げる息子の姿に、幾度なく涙腺が緩みそうになったことは内緒だった。
「もちろん、お父さんも楽しかったよ?・・・一也と花火見れて本当に良かった」
心底息子を思いやる山口の姿にザワリと心の闇がざわめくのを無性に感じた魔王だったが、宥めるように手を握ってくれた新の存在で己の心を癒すと、山口に言った。
「これでもう悔いはないはずだ・・・そろそろ行った方がいい」
聡明な山口は少ない言葉から何か察したのだろう、一つ頷くと深々と頭を下げた。
「ありがとう、清水君・・それに黒崎君も・・・どうやったのかはわからないけど・・・あの花火は僕たちのためにやってくれたんだろう?親子揃って料理したり花火鑑賞できたなんて『最高の夏の思い出』になったよ。本当に、ありがとう。ほら、一也もお二人にお礼言って?」
離別の時を察したのだろう父にそっと促された一也は、はにかんだ笑みを浮かべたがそれでも億すことなく一緒に思い出を作った『友達』に礼を言った。
「新お兄ちゃん、それに黒崎君・・・今日は一緒に遊んでくれてありがとうございました。僕、本当に楽しかった」
邪気のまったくない素直な少年の言葉に壱哉は僅かな動揺を見せたものの、すぐに余裕の笑みを浮かべたまま鷹揚に頷きかえした。
感動の対面に困惑した魔王がもう行け、とばかりに手を一振りすると、光に包まれた笑顔の親子の姿は徐々にフェードアウトしていき本来の居場所へと還っていったのだった。
おしまい
※実際のにゃんこは
とか
苦手みたいですが、新君は魔猫なので集音量を調節できるって妄想設定です。
