その直後だった満点の星が輝いていた夜空に、突如暗雲がかかり厚く垂れこめ渦を巻いたその中心から地面へと一筋の稲光が伸びたのだった。
![]()
異変に気づき天を指す者や携帯電話を取り出す者達の姿が続出したが、周囲の電化製品は全てショートしてしまい河原で寛いでいた者達の間に軽い衝撃が走った。
![]()
「・・・・・来たぜ」
闇の中、猫のように爛々と輝く双眸で一点を見据えたまま全く動揺すら見せない新の横顔に、山口はそっと声をかけた。
「・・・清水君?」
しかし、背筋を凍り付かせるような尋常じゃない気配を敏感に察した山口は、やはり異変を察し身を竦める一也を守るように抱きしめながら周囲の気配を探った。
![]()
「・・・・ほう、相変わらず勤労に勤しむお前の姿、悪くないぞ?・・・いい眺めだ」
背後から不埒な手で腰を一撫でする好色な魔王に、従魔新は呆れたようにぼやいた。
「ったくあんたは、ほんとソレばっかだなっ・・・エロ魔王の黒崎さん」
――え?・・・黒崎君って・・・
一際濃い闇に目を凝らした山口の双眸が驚愕に見開かれることになった。新の背後にまるで寄り添うようにいつの間にか黒崎壱哉の姿があったからだ。
「・・・そうツレないこと言うな。・・・これでも俺はお前一途なんだぞ?それにお前会いたさに最短で地球の裏側からかけつけたんだ。・・・だからご褒美
」
危険は日常茶飯事だった。
だからこそ魔王の伴侶となりながらもささやかで穏やかな日々を望む新を常に傍に置くことはできなかった。
しかしそれでも、魔王と一心同体の存在である従魔の彼を壱哉が忘れることは片時たりともなかった。
その想いに少しでも報いるべく、寂しがり屋の新に一切制限のない『魔王召喚』のスキルを持つことを許したのだ。
魔王のくせに相変わらずチュウをねだる壱哉にうっかりほだされてしまう自分に呆れながら新はぼやいた。
「しかたねぇか・・俺もたいがいあんたには甘いよなあ」
ぶうたれながらも満更でもない様子で身を預けてくる新に苦笑をもらした壱哉は、我が意を得たりとばかりに嬉しそうにのたまった。
「わかったならまずは充電させろ、新
」
驚いたまま固まる山口には目もくれず、久々(かれこれ一日ぶりだったが)の新の温もりを抱きしめながら唇を奪った。
スキンシップには殊更弱い新もまた、『魔王召喚』を使った理由も忘れたように身に馴染む情熱的な愛撫に応えようと背後から抱きしめる魔王の身体を尻尾で引き寄せ、甘えたような吐息を漏らした。
「あっ・・・はん・・・・ふっうんっ・・
」
「ちょ、ちょっと・・・清水君って・・あ、一也、見ちゃダメッ
」![]()
まだ幼くよく知る二人が抱擁を交わす姿に戸惑う一也の無垢な心を守りたい一心の山口は大人びた表情を見せる新の姿に驚きつつも恋人同士の気が済むまで忍耐強く一也の両目を優しく閉ざしてやると、気を利かせて立ち去るべきか否か悩みながら事態を見守るしか道はなかった。
「・・・・んん・・・はっ・・・!!これ以上は無理だってっ!!今はそれどころじゃねえんだってば!!・・黒崎さん!」
魔王として、可愛い声で呼んでくれた愛しい召喚者に応えなければならなかった。
しぶしぶ身を離した壱哉は頬を上気させ息を弾ませる新の充血した唇にチュッと柔らかなキスを落とすと促した。
「お願いがあるなら、この可愛らしい口で言ってみろ、新」
![]()
誘惑するような魔王の言葉にうっとりと頷いた新は、身を乗り出すと壱哉を指先でのの字につつきながらそっと耳打ちした。
(あんさ・・・・俺、今日さ・・あの二人にすげ~世話になったんだ。山口さん快く俺に力貸してくれてさ・・一也も頑張ってくれて・・俺、嬉しかった。だからさ・・・二人に『夏休みの思い出』をプレゼントしたいと思って・・・そしたらあの二人も、こん世界から解放されっと思うんだ。・・・だから俺に、黒崎さんの力貸してくれる?一日一善って言いたいトコだけどさ・・)
――こうしてあんたにも会えたし、俺にはやっぱ一石二鳥だかんな
こっそりと付け加える恋人を慈愛に満ちた眼差しで見返した壱哉は満足そうに頷いた。
「情けは人のためならず・・・というわけだな、よかろう・・・気に入ったぞ」
恋人だけに見せる甘い雰囲気をすっと消すと、こちらの様子を伺う山口親子に冷めた視線をくれた魔王は、それでも抱きかかえた新の温もりを楽しみながら、策を巡らせた。
(・・・・なるほど、どうやらこの世界の俺は思った以上に善良なようだな)
かつて体が弱かったはずの少年は、父の腕の中で身を竦めながらも強い魂の輝きを放っているようだった。それも偏にモノ好きな黒崎壱哉が施した慈善の賜らしい。