「・・・俺、この目で悪魔見ちゃったよっ!!すげ~~・・しかもなんか想像してたのと違って美形だったよなあ」
危機が去り一人おかしなテンションでひとりごちる樋口をチラリと見やった壱哉は、注意を引くべく繋いでいた手に力を込め握手しながら、定期報告の予定だったことを思い出していた。
「樋口、遅くに悪かったな。今度快気祝いに酒を飲もう。それでいいか?」
樋口と二人きりで会うことに不安を感じるのか、腕の中で抱きしめたままの新が身を固くするのがわかった。
しかしサプライズで新を喜ばせたかったため、別の口実が必要だった壱哉の思惑を正確に汲み取った樋口は頷いてくれた。
「わかった。それじゃあまた連絡するよ」
名残惜しげに壱哉の手を振りほどき、病室の出口へと向かいながらチラリと床に散った薔薇の名残に目をとめた樋口に、吉岡が言い添えた。
「・・後片付けは我々の方でやっておきますので、ご安心ください。・・お気持ちだけ受け取らせていただきます」
吉岡の慰めの言葉に、頷く樋口に新もまた声をかけた。
「薔薇、もったいなかったな。けどさ、そん薔薇のおかげで、黒崎さん助かったようなもんだしさ・・ありがとう、樋口さんっ」
口々に礼を言うのに首を傾げる壱哉に新が簡単に説明をした瞬間、壱哉とそして樋口の脳裏に過ったのが同じ光景であったことは二人だけの秘密だった。
一面に広がる薔薇園を見た時の高揚感を胸に抱きしめたまま、樋口は壱哉を見つめたまま言った。
「悪魔なんて驚いたけどさ、なかなかできない貴重な経験をさせてもらったと思うことにするよ、黒崎も無事だったことだしさ」
「じゃあな」と手を振り去っていく友の背を新と共に見送った壱哉は、樋口と共有したセピア色の記憶を大切な思い出として胸の内に収めたのだった。
おわり
