「新・・・俺はお前に約束した。必ずお前の『夢』を取り戻してやると
・・・これが俺からの贈り物だ・・受け取れ!」
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壱哉に誘われるように、新が差し伸べた手が触れ合った瞬間だった。
腕を引かれ力強く抱き寄せられると同時に周囲に光が満ち溢れ、思わず眩しさに目を瞑った新の耳朶をくすぐるように穏やかだが力強い壱哉の声が届いた。
「恐れずに目を開けろ、新・・そして俺に誓ったお前の夢を取り戻せ!」
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―――眩しいっ
壱哉の声に勇気づけられ目を開けた瞬間飛び込んできた光
・・それは真夏の太陽の放つ強烈な日差しだった。
いつの間にかすぐそこにあったはずの建設現場はもちろん、他の一切の障害物も跡形もなく消えていた。
「・・・・あっ・・・」
眼前に広がる驚愕の光景を目の当たりにして大きく見開かれた新の好奇心旺盛に輝く琥珀色の瞳、その金色に光り輝く虹彩に重なるように映り込むのは大輪に花開くヒマワリの花だったのである。
眩しさに目が眩み思わず閉じた瞼の裏に反転して像を結んだのはいつか壱哉と見た夜空を彩る大輪の花火の残像だった。
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―――違うっ・・そんなんじゃないっ
(あの夜見た花は消えちまったけど・・これは違うっ・・俺は確かにこの光景をこの人と
・・俺の愛する人と一緒に・・確かに見たんだっ)
太陽を求めてやまない、みっしりとした瑞々しい黄色い花弁に縁取られたその花の群像に括目した、新の脳裏に強烈な印象とともに刻まれたその光景がフラッシュバックした。
そして連鎖的に、蝉しぐれの鳴り響く中圧倒されるような背丈のヒマワリの海原を前に恋人の壱哉と交わした会話が脳裏に過った。
『・・黒崎さん、連れてきてくれてありがと。やっぱこれだけあるとすげえなあ・・一度しっかり見ておきたかったんだ。・・・俺さ、ヒマワリってわりと好きなんだ。・・・なんでだかわかる?』
『珍しいな・・お前、冬生まれだろう・・?』
おかしなところに反応を返す壱哉に苦笑しながら新は軽い突っ込みを入れた。
『それあんま関係ないって』
期待感を募らせながら促すように見つめ返すと、壱哉は照れた面持ちで口ずさんだ。
『う・・ん、そうだな。なんとなくだがお前みたいだと思うが』
『・・俺みたい?』
興味を惹かれ好奇心に目を輝かせて先を促す新に壱哉は答えてくれた。
『ああ・・なんというかヒマワリは真っ直ぐだろう?・・逆境にもめげずに陽の光を目指してるとこなんか、お前と重なるんだが』
壱哉の言葉に新は嬉しそうに破顔した。
『そう思う?・ありがと、あんたからそう言われんのやっぱ嬉しい。・・俺のことよく見ててくれるんだな~って思うとさ?・・なあ、黒崎さんなら知ってっと思うけどさ・・俺がヒマワリを好きなのは・・』
――――俺の『夢』を象ってる花だから、なんだ
眩しそうにヒマワリを見つめながら一生懸命壱哉に想いを伝えるべく説明する新の脳裏に、常に公明正大であることの証であり、それを真摯に受け止める者にこそ身に着けることを許されるヒマワリと天秤を象った輝かしい記章が浮かんだ。
『・・・だからさ、一度黒崎さんと一緒に見ておきたかったんだ。・・今の俺にはまだまだ遠い夢だけどさ、必ずこの手に掴み取ってみせるから!・・・だからっ・・俺ん傍にいて見届けて欲しいんだ』
それは確かに蝉しぐれの鳴り響く夏の午後の出来事だった。
一面のヒマワリ畑を前に己の決意を壱哉に誓ったあの時、身にほとばしっていた情熱が再び渇いた胸の内に漲るのを新は確かに感じ取ったのだ。
「・・黒崎さんっ・・俺、思い出したよっ・・・俺、あん時確かにあんたと約束したよなっ!?」
ヒマワリ畑を前に誓った『大切な約束』、そしてさらに新は壱哉を信じて託した『願い』を思い出した。
――俺には黒崎さんと弁護士になりたいって夢のどちらかを選ぶことなんてできないっ・・
――大好きな黒崎さんも弁護士になって弱い人の力になりたいって夢も・・・
――――俺には大切で必要なんだ!!
だけどそのかわり黒崎さんだけ忘れて弁護士になるって夢だけ覚えてることなんて・・
俺にはできねぇからさ・・欲張りかもしんないけど・・俺の大切なモノ・・
全部取り戻してくれよな?・・・黒崎さんっ
(・・俺との約束・・守ってくれたんだっ)
熱に浮かされたように必死に言い募る新を抱きしめたまま、壱哉は勝ち誇ったように宣言した。
「ネピリム!お前の負けだ!・・俺は全身全霊を賭して新への愛を証明するとの誓いを果たしたぞっ!!」
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「・・・黒崎さん!?・・・まさかっ!?」
「壱哉様!!」
新と吉岡が見守る中、全身を発光させる壱哉の手には【真実の愛のカード】が握られていた。
それを目の当たりにした瞬間、新は今目の前で行われている状況が何を示すのか、
壱哉が新自身の無くした夢を取り戻すためになにを犠牲にしたのかがわかったのだった。
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突如空き地に出現した地平線の彼方まで見渡す限り続く一面のヒマワリ畑、
それはあの夏確かに二人で見た光景の再現であり、記憶を呼び戻すものではあったが、現実のものではなかった。
――あのヒマワリの一本一本が黒崎さんの魂なんだっ
花の匂いも色味も質感も存在感も幻と呼ぶにはあまりにもリアルなそれらは全て壱哉が全ての魂を注ぎ込み、愛する少年の夢を取り戻すべく具現化したまさに愛の結晶に他ならなかったのである。
―――黒崎さんっ!!
身をもって愛を示してくれた壱哉への想い溢れる涙が少年の頬を濡らした・・
