「・・・あんたの話はだいたいわかったけどさ。・・でもまだ納得できないことがある。・・・さっきも聞いたけどさ・・なんでたぬきが部屋にいたんだよ?・・アイツらが黒崎さんの言うとおりそのネピリムって奴の手下なんだとしてもさ、たぬき相手に油断すんなんて、あんたらしくねぇよっ」
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さて、なにから説明するかな
⇒箱のこと
「ああ・・・それは・・・その箱をみた時、俺はてっきりお前が大切に押し入れの奥に仕舞い込んであったあの箱だと思ったんだ。」
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壱哉の指した先に転がってるのは、確かに新が参考書や問題集を詰め込んだ例の箱とよく似た果物の空き箱だった。
「・・じゃ、あん中にたぬきが・・?」
壱哉のうかつな行動の意味を解した途端、新は反射的に顔を上げたが、箱のことはすでに知られていたことを察していたのだろう、ただ一言「そっか」と頷くとよろけながら立ち上がった。
まだ新を離すことに本能的な恐怖を感じていた壱哉は不安げな面持ちで新を見上げたが、なにか伝えたいことがあるのだろうと抱き寄せたい気持ちを我慢して様子を伺うに留め、座したまま視線で追うと新は押し入れを開け放し、例の段ボール箱を壱哉の視界にさらした。
「・・・ほら、箱ならここにあんよ?・・俺・・・やっぱ捨てられなかったんだ」
新が葛藤して、目をそむけたとしても、やはり『夢』を捨て去ることはできなかったのだと知り、ホウッと心の底から安堵した壱哉は身を起こしふらつきながら新の元へとたどり着くと、押し入れの前に悄然と佇む新を支えるように背後から抱きしめてやった。
「新・・・すまない。お前が俺を忘れ・・そして夢を失ったのは・・全部俺のせいなんだ」
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「・・・それ、どういうことだよっ」
これまで幾度なく訪れた予感に震えながら、振り返った新は見上げながら壱哉の言葉を待った。
さて、なにから説明するかな
⇒夢のこと
(・・・ついにこの秘密を打ち明けねばならん時がきたわけか・・・)
壱哉は新を見下ろしたままこうなった理由を語ってきかせた。
新を愛するあまり酷い仕打ちをした過去を消し去りたいと望んだ結果『忘却』という影響を及ぼしてしまったことを、躊躇いがちに壱哉が告白する間、新は呆然とした面持ちで佇んでいた。
「・・・だから、お前が夢を失ったのは・・俺のせいなんだ・・・許してくれ、新」
壱哉が悔恨の念とともにそう締めくくった時だった、新の様子に変化が訪れたのは。
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信頼と絆の証しであるカードに触れあい心が通い合ったことで、記憶の封印は緩み壱哉が語る真実と共に新がこの世界で目覚めた瞬間、失ってしまった膨大な記憶の奔流が押し寄せてきた。
――俺には黒崎さんと・・・・夢のどちらかを選ぶことなんてできないっ・・
――大好きな黒崎さんも・・・・夢も俺には大切で必要なんだ!!
――黒崎さんを忘れるなんて絶対嫌だけどっ・・
・・それがこの世界のルールで黒崎さんの望みなんだったら・・俺、従うからっ・・・
「・・・ひでぇよ・・・それじゃあ俺の気持ちはどうなんだよっ・・!?・・・俺・・俺は黒崎さんのこと・・忘れたくなかったのにっ」
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「新っ・・・お前・・記憶が?」
記憶に翻弄されながらも真実の一端に辿りついたのか、悔し涙を流し身を震わせる新を前に、壱哉は改めて恋人を苦しめてしまった己の身勝手さの代償を知ることになった。
「・・・全部じゃねぇけど・・あんたと俺のことは思い出したよ。まだ記憶がごっちゃになってっけどさ・・」
「・・・すまないっ・・・俺は知らぬ間にお前の気持ちをないがしろにしてしまっていたんだな。・・やり直したいと望むことが、俺を許して受け入れてくれたお前の想いを踏みにじることになるなんて・・・本当にすまない・・」
互いに涙を流しながら抱きしめあった後、壱哉は改めて恋人の新に告げた。
「・・新、愛してる。こんなことに巻き込んでしまって本当にすまない・・・俺を・・許してくれるか?」
心の底から新を愛していて、信じてはいたがそれでも答えを聞く瞬間は壱哉には恐ろしくてならなかった。
「・・・ったくぽんぽこぴー・・・許してやんよ。・・まあ、俺にもちょっとは責任あるみてぇだし」
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「・・どういう意味なんだ?」
新が再び許して受け入れてくれたことに感無量になりながら、続く言葉の意味がわからず、首を傾げる壱哉に新は苦笑しながら言った。
――だけどそのかわり黒崎さんだけ忘れて・・・・夢だけ覚えてることなんて・・俺にはできねぇからっ・・
もし俺が両方忘れても・・俺の大切なモノ・・全部取り戻してくれよ!・・な?黒崎さんっ
「・・俺なりのケジメって~かさ。あんたのことだけ忘れたまんまなんてフェアじゃねぇだろ?・・『夢』も『希望』もなくした俺んことなんて・・あんたがまた好きになってくれっかわかんなくて不安だったけどな。どうせならって思い切って両方忘れることにしたんだよなあ」
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「・・・それはつまり、お前が俺を忘れたのは俺のせいで、お前が夢を忘れたのはお前のせいってことか?」
「・・・まあ、そ~ゆ~ことに・・なんのかなあ・・?」
責任の所在は明らかだと思っていた壱哉が拍子抜けした顔で尋ねると、新は困り顔で頷いた。