「・・・ただいま~!・・黒崎さんっいるか~!?・・今、こん部屋からたぬきが・・・って!!??」
![]()
![]()
まさに化かされた気分で未だ興奮した面持ちの新は口早に捲し立てた、
次の瞬間絶句することとなった。
開け放された窓から西日が差しこんだ部屋は夕闇に溶け込むようにすでに部屋の大半は陰っていた。
その暗がりの中心にボウッと浮かぶのは壱哉と思しき顔だったのだが、目の錯覚か黒地のスーツはすっかり周囲と同化して、まるで生首が漂っているように見え、新を戦かせた。
「・・・っ・・」
あまりにも生々しく奇妙すぎて直視することが躊躇われて、明かりをつけることなく土足のまま、よろけるように一歩近づいた。
「・・・黒崎・・・さん?」
呼びかけに答えないことに焦れた新が、さらに一歩近づき目を凝らすとどうやら壱哉はなにかを銜えているため声を発することができないようだった。
![]()
![]()
「・・・それって・・俺が渡した合鍵?」
「・・あ・・・ら・・た・」
壱哉が救いを求めるように新の名を呼んだ瞬間、その開いた唇の狭間から無情にカギが零れ落ちた。
・・・タンッ
落下したカギの上げたはずの悲鳴は畳に吸収されてしまったが、
新はびくりっと身を竦ませた。
それはまさに異様な光景だった。首から下が消失した壱哉の首が宙に浮き、こちらに縋るような視線を寄越しているのだから。
しかもよく見ると、壱哉の双眸からは涙が滂沱しポタポタと畳の上に雫が滴っていて、気づいたら新自身の目からも涙が溢れてやむことはなかった。
俺、どうすればいい?
★黒崎さんを抱きしめる(+10,000,000)
―――黒崎さんが消えちゃうっ!!そんなん嫌だっ!!・・やだよぉっ
壱哉消失の恐怖を肌で感じ、本能でどうすべきか察した新は咄嗟に、闇に消え散りそうな壱哉の体をかき集めるように、奪わせまいとするかのように抱きしめた。
恐怖で身を竦ませ、嗚咽をもらしながら抱きしめてからどれだけの時が過ぎ去ったか、
あるいは途方もない時間にも思えたが、実際は新がかいなに包み込んだまさに瞬く間の出来事だった。
気付いたら、確かな手応えのある壱哉の逞しい腕がほっそりとした新の腰を深く抱き寄せ、互いの温もりを確かめるように身を寄せていたのである。
その壱哉の拳の中には新から渡されたまさに命綱となった愛カギがしっかりと握りしめられていた。
トクントクントクン
――あっ・・黒崎さんの心臓の音・・
壱哉の胸に頬を寄せた新の体感に壱哉の命の鼓動が、自分と同じリズムで刻むのを感じて、危機はとりあえず脱したのだとまさに感無量の新の耳に、余裕を取り戻した壱哉の声が聞こえてきた。
「・・ありがとう、新・・おかげで助かった」
![]()
![]()
「・・・これっど~ゆ~ことだよっ・・・黒崎さん!?俺、・・俺っ・・・死ぬほど心配したんだかんなっ!?」
壱哉が無事だと判明した途端、隅に追いやっていた常識や疑問が怒涛のごとく押し寄せてきて、一気に恐慌状態になった新を一旦落ちつかせる必要がありそうだった。
さて、どうするかな
★甘く黙らせる(+10,000,000)
「・・・新・・しっ・・・少し黙れ」
![]()
![]()
言うなり壱哉は抱きしめたままだった新の柔らかな唇を強引に、けれど優しく奪った。
甘く緩やかに唇を合わせ、緩んだ隙を見計らい呼吸を合わせながらさらに深く口づけるとさすがに驚いたのか、新は一瞬身を竦めたものの、すぐに力を抜くと甘えるような吐息をもらした。
![]()
「・・・んんっ・・・う・・んっ・・」
身に漲る充足感を覚えながらゆっくりと唇を離した壱哉は、頬を染め夢見心地のようにうっとりと目じりを緩ませた新と視線を合わせた。
「・・ほら、話を聞きたいんだろう・・?話してやるからしっかりしろ」
「?・・・・んっ・・・うん」
羞恥で頬染めながらも従順に頷く新を前に、なにから話せばよいのか壱哉は思案した。
さて、なにから説明するかな
⇒たぬきのこと
(うむ、そうだな。・・まずはこうなった経緯から話した方がよさそうだ)
「驚かせて悪かったな、新。明らかにまともじゃないのは見ての通りだが・・とりあえず順番に説明させてもらってもいいか?」
様子を伺いながら尋ねると、新はしぶしぶといった面持ちで頷きかえした。
「・・・よし、いい子だ」
「・・・子供扱いすんな・・」
ムッとしたようにぼやく新の反応が可愛くて、ふっと笑うとさらに新の頬が夕焼け色に染まるのが見えた。