「・・実は昼過ぎに黒崎が店に顔出してくれたんだ」



!!



なんとなくそうではないかと予感していたからか思ったよりも衝撃は訪れなかったが、それでも自分と別れた後に壱哉が樋口に会いに行ったのだということに動揺しながら、もっと苦い心地のまま新は氷が融け薄まってしまったまずいコーヒーに口をつけた。



「ああ・・・昨日貸した傘を返しにきてくれただけだよ?」






(・・・なんだ、それだけか・・・そっか・・)



別に壱哉と特別な関係にあるわけでもなく、その行動の一つ一つに口を出す権利などなかったが、それでも彼の一挙手一投足に一喜一憂する自分がいるのはどうしようもないほど確かなことだった。


それを知ってか、わざわざ付け足す樋口にどこか面白がる気配を感じていたたまれない心地になりながら、新は樋口の言葉を待った。



「・・・その時に白と赤の薔薇をお買い求めいただいたんだけど・・・白は残念ながら俺じゃなくてサンダーへの献花だったんだ。・・・一緒に送れなかったけど、でも・・黒崎の気持ちは嬉しかったんだよな。・・できたら生きて元気だったころのアイツに会ってやってほしかったけど。・・ね?」



同意を求める樋口に新は頷き返しながら、壱哉の買い求めた赤い薔薇について思いはせた。



(薔薇なんて・・俺の柄じゃねぇし・・まさかな)



もし壱哉がプレゼントしてくれるならばどんな花でも迷わずに喜んだかもしれないが、薔薇の似合いそうな樋口を前にどう考えても自分にではない気がしてしまい落胆しながら、半ばヤケクソ気分で新は尋ねた。



「・・・それじゃあ・・・赤い薔薇は?・・樋口さんにだったの?」



しかし樋口は軽く手を振りながらあっさりと否定した。



「・・ま、俺にじゃないことは確かかなあ・・そうそう、清水君は赤い薔薇の花ことばって知ってるかい?」



その言葉に嘘は感じられなかったことに安堵していた新は、どこか気を持たせるような樋口の言葉に困惑しながら無言で首を振った。



!?



身を乗り出してきて、まるで耳打ちするように告げられた言葉に、新の頬はカッと火照っていた。



(あ・・・そういや・・・黒崎さん、今夜帰ったら話あるって・・っそういうことかよっ・・・ど、どうしよ俺っ)



俺、どうすればいい?



★黒崎さんを信じる(+10,000,000)



(・・そうだよな。・・たとえ何があっても俺は黒崎さんを信じよう・・ああっ・・でもやっぱ緊張するっ)



思わせぶりなセリフを吐き、花屋で赤い薔薇を買い求めた壱哉の真意を考えれば考えるほど、『告白』の予感が高まってきてすっかり動揺してしまい上の空の新に、樋口が遠慮がちに声をかけた。



「・・いいかな・・清水君?」






「・・・あ、はい」



未だ動揺は収まらなかったが、無意識にかき回していたストローでもう一口コーヒーを飲んだ新はなんとか気を落ちつけると樋口を見やった。



「黒崎の思わせぶりな態度って本当に困るだろ?・・・俺もこんなものもらって困ってるんだ・・どう思う?」



―――え?



「・・それが今日、俺があの場所を訪ねた主な理由ってことになるかな・・まあ、黒崎は捉まらなかったんだけど」



樋口が差し出したのはどうやら花などに添えられる小さなメッセージカードのようだった。



「・・・これ、黒崎さんが樋口さんに渡したっていう献花についてたもの?」



頷く樋口から開くように促された新は、緊張の面持ちで受け取ったメッセージカードを開いてみた。



――!!



『明日××時・・お前がを失った場所に来い・・・お前の夢を返してやる』



メッセージカードには壱哉のものらしき力強い肉厚な文字でそう書かれていた。



(・・・夢?・・)



そのメッセージを見た瞬間、新の脳裏に壱哉と交わした昨夜のやりとりが過った。



『・・・新、お前の『夢』はなんだ?』



樋口と自分に『夢』について壱哉が尋ねたことに関連があるのかはわからなかったがなんとなく胸騒ぎを感じ、新は先ほどの会話を思い返しながら確かめるように樋口に尋ねた。



「・・・樋口さんの『夢』って・・親父さんの夢を継ぐことだよな?・・手放したって土地に新種の薔薇を咲かせたいっていう?」



血相を変え、身を乗り出す新の態度に驚きながら樋口は頷きかえした。



「清水君・・君、なにか知ってるのかい?」



壱哉と会ってから漠然と続いていた違和感の答えが出そうな予感に震えながら、それでも樋口を納得させることができるほどの情報を持たない新は、力なく首を振りながら席に落ち着くと居住まいを正し樋口を見やった。



「・・俺にはなんで黒崎さんがそんなメッセージを樋口さんに残したかはわかんねぇけど・・・でも、たぶん大事なことなんだと思う。だってさ・・中学の時それほど親しくなかったんだろ?なのに黒崎さんは樋口さんに会いに行ったってことはなにか伝えたかったことがあるからだと思うんだ」






「・・黒崎が伝えたかったこと?・・・俺の『夢』のことで・・?」



困惑した面持ちで考え込む樋口に今度は新がしっかりと頷き返したのだった。



それからほどなく答えの出ないまま場はお開きとなった。



「今日はありがとう、清水君。・・君と話せてよかった・・これ、付き合ってくれたお礼。・・俺も時々食べるんだけどさ、ここのシュークリーム評判いいんだ。・・よかったら黒崎と食べて?」



「・・ありがとうございます、樋口さん。あっと・・今日はご馳走様でした」



最後まで気を抜かないスマートな樋口の大人の対応に、なんとなく年の差を痛感してしまいすっかり気おくれしながら、礼を述べ樋口から菓子の入った箱を受け取った新は、店に戻ると言う樋口と喫茶店の前で別れると帰路についたのだった。



清水新はアイテム【シュークリーム】を入手した!