そのまま大家を置き去り、重さを物ともせずに軽い足取りで階段を駆け上がった壱哉は、わき目もふらずに合鍵でカギを開け、室内へと奪取した箱を運び込んだのだった。
そして緊張と恐怖からくる妙な息苦さを感じながら、とりあえず上りかまちに置いた段ボール箱の中身を確認しようと手を伸ばした、それは・・・まさに瞬間の出来事だったのである。
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『たぬたぬ~~~っ!!』
奇声を発し箱を押し開け飛び出してきた丸々と太った三つの影が壱哉に襲いかかったのは・・
―――たぬき!?・・・だとっ!?
◆黒崎壱哉はアイテム【ヤサグレたぬき箱】を入手した!
たぬきが飛び出した勢いで、フタの上に乗っていた薔薇の花束が跳ね飛ばされ宙を舞いながら真っ赤な花弁をまき散らす様子が、まるで静止画のように驚愕に見開かれた壱哉の双眸に映り込んだ。
『・・この間もね?斜向かいの和菓子屋さんとこの横っちょの路地に出たってねえ・』
脳裏にコダマするのは和食屋の大将の声だった。
「・・ちっ・させるかっ!!」
すぐに持ち前の冷静さを取り戻したかに見えた壱哉は、たぬきを外に出すためにとっさに締め切ってあった窓を解放したのだ。
が、部屋中を我が物顔で縦横無尽にエサを求め、逃げ回る三匹のたぬき相手ではいささか分が悪かった。
なぜならば、たぬきと共に箱詰めされていた大量のバナナの皮もまた部屋中にまき散らされる様も仰ぎ見て取れたからだ。
――そう壱哉の体は仰向けに畳に向かい重力に逆らうことなく落下していたのである。
(-6,000)
ツルッ
ローテーブルを避けたぬきを捕まえようと反射的に身を乗り出した壱哉の手から、まんまと逃れたたぬきをさらに追いかけようと注意力散漫になり足元がおろそかになってしまったのが敗因だった。
『・・・今度は果物屋に出たってねえ・積荷下してた店の若い子が襲われたって・・怖いねえ・・』
続いて脳裏にコダマするのは和菓子屋で見かけた客の老婦人の声だった。
(ってそういうことかよっ!?)
これまで商店街周辺で幾度なく感じた悪意ある視線の主の正体、そして脳裏に過る錯綜する情報に気を取られて壱哉が床に散乱したバナナの皮に足を掬われてしまった瞬間だった・・・
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「しまったっ!!」
ボタンが外れ、開いたスーツのジャケットの胸元から弧を描きS・Gカードが勢いよく飛び出してしまったのである。
その瞬間、確かに壱哉はピカリッと殺気を帯びたたぬきと視線が交わった気がした。
「たぬたぬ~~っ!!たぬっ!!」
二匹が壱哉の足元を陽動するように駆け抜ける中、一際大きな一匹のたぬきが躊躇なく畳を蹴り上げキッチンカウンターへと跳び乗ったかと思うとカレー鍋に体当たりをしたのち、今度はその反動を利用して宙を舞い孤を描き落下する直前、万歳するように伸ばした壱哉の指先からかすめ取るようにS・Gカードをくわえ奪い取ることに成功したのである。
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―――なっ!!?(-1,000,000)
宙を舞う赤い花弁に、飛び散る汗、具を弾ませながら強烈なスパイスの香と共にほとばしるカレー汁、散乱しながら甘い芳香を放つバナナの皮・・・そしてヤサグレた三匹のたぬき。(-500,000)
全てが一瞬の出来事だった。
タッタタタタッ
衝撃から立ち直れずに畳に後頭部をしたたか打ち付けた壱哉の横を通り抜けたたぬき共は次々と開いた窓から軽々と逃走を図ったのだった。
「くそ~~~~~~っ!!」
後悔しても後の祭りだった。
◎人物難LV.4発動
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