一方、花屋を出た壱哉はその足でとある場所へと向かっていた。



(・・・確かこの間樋口と行った和食屋の斜向かいだったはずだが)



記憶を頼りに壱哉が辿りついたのは、商店街の中ほどにある和菓子屋だった。

簡素な佇まいだったが、壱哉は迷わずに自動ドアをくぐり店内へと足を踏み入れた。



店内では年のころ50代とおぼしき女性店員が、常連らしき老婦人相手に接客中だった。



「・・・聞いたかい?・・今度は果物屋に出たってねえ・積荷下してた店の若い子が襲われたって・・怖いねえ。・・あ、それじゃあまんじゅうもらえるかい?爺さんがうるさくってさあ・・嫁と孫で取り合いになっちゃうの・・ここのまんじゅう美味しいからっ・・私のヘソクリなのにねえっ」



なにせ手狭なため、憚る様子もない二人の会話が聞くともなしに耳に入ってきた。



(?・・・出た?・・なんだか最近よく耳にするが・・まあいい、俺にはどうせ関係のない話だ)



無関心を装いながら、手持無沙汰な様子で店内を見て回っていると、間もなく気が済んだのか老婦人は意気揚々と引き揚げていき、壱哉の番となった。



「いらっしゃいませ~・・おまたせしました~。・・なんになさいます?」



一見だからか、先ほどとは打って変わり男前(イケメン)を前に余所行きの顔をする店員に内心辟易しながら壱哉は、高級水菓子の詰め合わせを注文したのだった。



黒崎壱哉はアイテム【高級水菓子詰め合わせ】を入手した!

(-3,000)





六日目/夕方





左手には深紅の薔薇の花束を大切そうに抱え、右手には和菓子屋で買い求めた菓子の入った手提げ紙袋を下げ、壱哉がアパート前に戻ってきた時には早くも夕方になろうという頃合いだった。


・・件の大家とゴミ置き場でバッタリと会ったのは。



ようやっと日がかげり涼しくなったからか、どうやらアパート周辺の清掃中らしくホウキを手に大家はなにやら思案気な面持ちで足元を見つめていたのである。



(・・・・・段ボール箱?)



釣られて大家の足元に目を転じた壱哉の顔が瞬時に強張った。



「・・・その箱はっ・・!?・・・まさかっ!?」(-1,000,000)



壱哉の脳裏に昨日から今朝にかけて記憶した場面が次々と駆け巡った。

押し入れの奥に押し込まれた段ボール箱、そして何気なく耳にした新の独り言・・



『・・・今朝はゴミの日だったな・・出してこよっと』



(・・・思えば何か吹っ切ったように朝から妙に新が上機嫌だったのはあの箱を捨てたからなんじゃないのか?)



考えれば考えるほど、壱哉にはその箱を新が置いたものと思えてならなかった。


ともかく最愛の少年の最悪な決断への恐怖から、大きな衝撃を受けた壱哉は常の冷静沈着さを著しく欠如していたのであった。



「おや・・?ああ・・なんだ黒崎さん・・っと」



愛想よく挨拶を交わそうとする大家の手に、壱哉は手にした手提げ紙袋を押し付けると、有無を言わさぬ調子で口早にまくしたてた。



「それ、今回お騒がせしてしまった詫びの品です。・・よろしければ奥様とどうぞっ・・それからこの箱はたぶんウチが手違いで出したものなんで俺が引き取らせてもらいます」



壱哉の剣幕に呆気に取られる大家を前に、まずは段ボール箱を確保するために手にした薔薇の花束を一旦フタの上に置くと、空いた両手でもってしっかりと箱を抱え上げた。



(よし、確保できたようだな)



黒崎壱哉はアイテム【謎の段ボール箱】を入手した!