少しの間の後、樋口が心細げな囁き声で言った。
「・・・外、雨だし・・・良かったら泊ってけよ黒崎」
!
肩に温かな重みを感じたと思ったら、なんと頬を染めた樋口が寄りかかっていた。しかもその手は縋るように、想いを伝えるかのように壱哉のスーツの端を握りしめていた。
「・・・いいだろう?・・こんな日は一人でいたくないんだ」
「・・・もう酔ったのか、口ほどにもない奴だな」
確かに樋口の提案は魅力的ではあったが、軽口で時間稼ぎをしながら壱哉は樋口がどういうつもりか、そして自分がどうすべきか考えを巡らした。
現実世界で樋口がずっと自分に対する淡い想いを秘めていたことは告白され知っていたが、すでに新に深い愛情を抱き、固い絆を結んでいた壱哉には彼の想いを知りながら答えることはできなかったのだ。
しかし、今はあの時とは事情が違った。最愛の新は忘却の淵にいて、再び壱哉を受け入れてくれるのかはわからず、一方の樋口は酒の上での戯れなのか、ほんの思い出づくりのための一夜の契りなのかは定かではなかったが、その気があるらしい。少なくとも愛する者がいるのだと先ほどの会話で確信を持ったはずの樋口がどの程度の覚悟で自分を誘っているのかはわからなかった。
「・・俺、一人になっちゃったよ・・・黒崎、・・・俺を一人にしないでくれよ」
何がしかの覚悟をはらんだ目で樋口がこちらを見上げた。
さて、どうするかな
★新を迎えにいく(+500,000)
壱哉はそっと窓の外を伺った。部屋の壁と同系色の涼しげなレースカーテンの間から灰色の雨雲と大きな雨粒が見えた。さらに雨の勢いは増し、遠くからゴロゴロと不吉な音まで聞こえてきた。
(・・新の奴・・・傘もっていってないんじゃないのか?)
壱哉の脳裏に風邪で倒れた新を看病した時の情景が思い浮かんだ。(+300,000)
(もし雨に濡れてまた倒れでもしたら・・・)
そう思ったら壱哉の迷いはあっさり消えた。
(俺の心は常に新とともにある。しかしまずはいまだに夢心地のコイツの目を覚ましてやらんとな)
憧れは憧れでしかない。実情を知らないのはフェアだとはいえなかった。