そんなわけで新は壱哉を伴い、いつも昼休みを過ごす公園にやってきていた。
晴天の真夏日に相応しく緑も一際濃く生い茂り、蝉がそこかしこで負けじと大合唱をしていた。
昼だからかちらほら園内に設置されたベンチで休憩しているサラリーマンや、木陰で涼む親子連れの姿があった。
天気や季節次第なので特に定位置は決めていなかったが、素早く園内を見渡した新は少しでも涼のとれそうな東屋へと壱哉を誘った。
「ほら、黒崎さん・・こっちこっち」
屋根で影のできた涼しげなベンチに並んで座った新は、今更ながら壱哉に尋ねた。
「あれ?・・そういえば黒崎さん、俺が用意しといた昼飯食べた?」
なんとなく一人だけ食べるのは躊躇われて尋ねると、案の定壱哉は首を振った。
「俺ならいつでも食べられるがお前は休み時間が決まってるだろう?・・早い方がいいと思ってな」
当たり前のように言われ感動に言葉が詰まってしまった新だったが、壱哉の気持ちはやはり嬉しかった。
「えっと・・じゃ、これ一緒に食べれば?」
新は壱哉の反応を気にかけながら包みを解くと、弁当箱のフタをぱかっと開けた。
「・・今日は俺ん定番の肉じゃがとオーソドックスな卵焼きだろ、それとウインナーに昆布の佃煮・・・・食べる?」
興味津々な面持ちで覗き込んだ壱哉の目に、美味そうな煮元とふっくらと焼けた卵焼きが映りこんだ。
ごくりっ
以前食べた時の味覚がよみがえり思わず生唾が出てしまい、新に弁当を届けるという使命の前に忘れ去っていた空腹が戻ってきた。
さて、なんて応えたものかな
★お前が食べたい(+300,000)
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壱哉が空耳かと思うほどの素早さで答えると耳ざとい新は案の定訝しげな面持ちになったが、やがて肩をすくめると箸を差し出してきた。
「ほい、箸これしかねぇからさ・・」
目の前に美味そうな弁当と箸を差し出され心惹かれた壱哉だったが、ここはやはり紳士として振る舞うべきだと結論付けた。
「俺はいいからお前が全部食べろ。・・・その方が俺も嬉しい」
すると、壱哉の気遣いがよほど嬉しかったのかしばしの逡巡のあと照れた面持ちで「うん」と頷いた新は「いただきます」と食前の挨拶を済ますと弁当を食べ始めた。
(・・・どうやら新の機嫌はなおったようだな)(+300,000)
内心ホッとしながらさりげなく新の様子を伺っていた壱哉だったが、改めて新の持つ忍耐強さや自分には些か足りない寛容さにどれだけ助けられているのだろう、と実感せずにはいられなかった。
「はあ~~うめぇ~味のしみこんだ芋がすきっ腹にしみてたまんねぇ」
嬉しそうな新の声を聞きながら柔らかく煮えた芋の絶妙な味を思い出し空腹をやせ我慢していた壱哉の目の前に、ヒョイッと芋が差し出された。一瞬願望の見せる幻かとも思ったが、確かに芋はそこにあり鼻腔をくすぐる甘辛い匂いを漂わせていた。
「新?」
夢にまで見たシチュエーションに期待で胸をときめかせながら見つめ返すと、新は許可するように「ん」と頷きかえしてくれた。
「あ~~ん
」
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壱哉が真顔で口を開くと、新はギョッとした風に目をむいたが程なく口の中に待ちかねたご褒美が訪れた。それは芋の一かけらに過ぎなかったがじっくりと噛みしめ味わう壱哉をまさに至福の境地へと誘うものだった。
「・・・・美味い」(+300,000)
「喜んでもらえてよかったけどさあ・・『あ~~ん』なんて言うオトナ・・俺、初めてみた」
まさかそんなベタなことをするとは思わなかったが、今朝の一件ですでに壱哉に対する認識を改めていた新としては最早これしきのことで驚く気にもなれなかった。
「そうか?」
なぜ驚かれたのかわからず不思議そうに首を傾げる『ぽんぽこぴー』な壱哉の反応に脱力しながらも、付け足すように新は言った。
「やっぱ黒崎さんって・・変わってんよなあ・・でも、俺さ・・あんたのそ~ゆ~トコ嫌いじゃないけどな?」
自惚れかもしれなかったが、そんなユルさを見せてくれたことがやはり嬉しかったのだ。
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すると壱哉は新の予測通り、満更でもない様子で微笑み返してくれたのだった。