「・・・なんだったんだ、一体」



!!



一人になった途端、壱哉は強烈な立ちくらみに襲われた。



「・・・これはっ」



驚いて確かめると、危惧したとおり右の掌が輪郭を点滅させながら再び空に溶けようとしていたのだ。



ドクンドクンドクン



「くっ・・・こんな時にっ・・・」



壱哉は混乱に飲み込まれそうになりながら必死に打開策を探した。



絶望的なことに、まだ昼前でありバイト中の新が帰宅するはずもなかった。せめてものよすがとして新の『声』を聞きたかったがそれが到底無理であることはわかっていた。



(ダメだっ・・・新は携帯を持っていないっ・・・)



前は点滅しかけた直後に新が帰宅して事なきを得ることができたが、存在の消失はじわじわと手首まで広がっていて、余裕は消え恐慌状態のまま、壱哉は閉じたドアを背にズルズルっと力なくその場に腰を落とした。



――新!!



壱哉は祈るように愛する者を心に思い描いた。



――まだだっ!まだ・・・俺は消えるわけにいかないっ



消えればゲームオーバーとなってしまうのか、本当のところは壱哉にもわからなかったが、このゲームがネピリムの仕掛けたものである以上、再びチャージすればまた一歩『無限地獄』へと近づいてしまうこともわかっていた。



しかし、それでもこのまま『夢』や『希望』を失ってしまった新を放っておくことはできなかった。

そのためにネピリムの思惑通りになってしまうのだとしても、今ここで消えてしまうわけにはいかなかった。



――新!・・・俺に・・俺に力をくれっ!!



さて、どうするかな



★キッチンを調べる(1,000,000)



!!



(・・なんだ・・?・・これは・・・?)



その時だった。霞む視界によろけそうになりキッチンカウンターに咄嗟に捕まった壱哉の左手、心臓にもっとも近いとされる薬指に温かく脈打つなにかに触れた。



思わず縋るように掴み取ったそれは、今朝新が忘れて行った手作り弁当だったのである。






―――新!



ハンカチに包まれた弁当に触れた瞬間、水を吸い上げ復活する植物のようにみるみる実体取り戻した両手でしっかりと握りしめながら壱哉はほうっと心の底から安堵と、感謝を感じずにはいられなかった。



(俺の中にあいつの想いがぐんぐんと物凄い力強さで流れ込んでくるのがわかる)



壱哉は弁当を通じて作った新の想いが身のうちに流れ込んでくるのを実感しながら、今朝のやりとりを思い返し苦笑した。



「・・・また、新のやつに助けられたな。まさか戯れのオチがこうくるなんて思ってもみなかったが・・・ふふっ」



壱哉は手にした弁当をまじまじと見下ろしたまま、ひとりごちた。



「・・・この弁当、新に届けてやるか」



黒崎壱哉は(ソウル)一品(フード)【新の手作り弁当】を入手した!



(・・・俺にとって新の弁当はプライスレスなんだがな・・)



壱哉の脳裏に公園で新と過ごした『大切』なひと時が思い浮かんだ。(+300,000)



再び力が沸きあがるのを実感しながら、新と自分を隔てる忌々しい障壁を超える覚悟を決めた壱哉は、弁当を手に外へと出たのだった。



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