部屋同様狭い押し入れの中は上段と下段にわかれていた。留学中はもちろんだが洋間で過ごすことの多かった壱哉にとって、押し入れの探索は幼いころ以来のことだった。
(押し入れか・・ささやかな秘密の隠し場所というわけだな)
こんな非常時だというのに、不覚にも壱哉はかすかな胸の高鳴りを感じていたのだ。
壱哉はじっくりと中を覗きこんだ。膝立ちのままだと万遍なく見ることができないためしぶしぶ痺れた足をさすりながら壱哉は立ち上がることにした。
さて、どうするかな
★上段から調べる
(探索のお約束通りだな。・・・よし、そうするか)
当然のことながらたった今まで壱哉が使用していたダブルの布団はまだ敷きっぱなしのままだった。代わりに押し入れの上段にはこれまで新が使用していたせんべい布団が収納されていた。
「・・・はっ」
壱哉はおもむろに気合いと共に両の掌を、布団と押し入れの棚の隙間に大胆に差し入れた。
スササササッと掌を左右に展開しながら意識を集中し触感のみで探ると、やがてなにやら紙の束のようなものを引き当てることに成功した。
―――よし!
「これだっ!!」
手に掴み取った何かを壱哉は得意げに掲げた後、気を取り直してソレを見たのだが・・
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◆黒崎壱哉はアイテム【新の秘蔵本】を入手した!?
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「・・・・・・・・・
」
それは壱哉にとってこの世でもっとも見たくないシロモノであることは間違いなかった。
壱哉は無言で雑誌を閉じると元の場所へと押し込んだ。
◆黒崎壱哉はアイテム【新の秘蔵本】を最速で捨てた!
「・・・・純朴な顔してても新も男だということだな」(-50,000)
気を取り直した壱哉は改めて考えた。
さて、どうするかな
★下段から調べる(-200,000)
顔を突っ込み屈みこんだまま覗くと、まるで隠すかのように奥に押し込まれた中型の段ボール箱が目に入った。
!!
―――これか?
先ほどの興奮は冷め、むしろ緊張した面持ちで壱哉はそっと厳重に閉じられた箱を引き出すと、無造作にガムテープをベリッと引きはがしにかかった。
――もし、これが俺の考えているものだとしたら・・俺はっ
己の罪から目を逸らしたくて新の抱える真実を見たくないと思いながら、それでもやはり確かめられずにはおられなかった。
!!
―――あった!
「・・・やはり、ここにあったのか」
その段ボール箱の中にぎっしりと詰め込まれたもの、それは新が大切にしていた『参考書』や『問題集』だった。
壱哉は一番上に載った『六法全書』を手に取り、重く深い溜息をついた。
何度も読み込まれ、くたくたになった表紙を労わるように撫でながら壱哉は新が『夢』を『封印』したのだと悟り愕然とした。
――なぜ?・・なぜ・・夢を諦めたんだ?
壱哉は苦しげに胸を掻き毟り呻いた。
(俺は『夢』を応援すると新に誓った・・でも本心では清廉潔白で立派な弁護士になったアイツが、黒い噂の絶えない俺の元から去ってしまうんじゃないかと怯えていたのかもしれない。・・・もし、俺のエゴのせいでアイツが『夢』を見失ったのであれば、俺はどうすればいいんだ?)
これが現実ではなく、壱哉の願望やネガティブな素因を反映しただけの世界にすぎなかったとしても、簡単に割り切れるようなものでもなかった。
なぜなら確かにこれは『夢』だったが、夢の住人と化した今の壱哉にとってこれは紛れもなく『現実』だったからだ。
∥招かれざる客3∥
ピンポーン!
その時、壱哉の焦燥をさらに煽るかのようにチャイムが鳴った。
(そっ!こんな時にいったい誰だ!?)
苛立ちながらドアスコープを覗くと、うさん臭い出で立ちの性別不明の人物がこちらを覗きこんでいた。
!!
一瞬無視を決め込もうと思った壱哉だったが、さきほどの思いつきをふと思い出した。
(・・・まさか、ネピリムの手の者か?・・・もしくは本人である可能性もあるのか?)
ピンポーン!ピンポーン!
催促するように鳴るのに煩わしげにドア越しに見やった壱哉はしばしの逡巡のあと覚悟を決めた。
確証はなかったが、なにせ怪しい風体の人物だったからだ。
威圧感を漂わせたまま無言でドアを開くと、壱哉は貫禄たっぷりに招かれざる客に凄みを効かせ一括した。
「・・・うせろ」(-8,000)
「
・・ひっ・・おほほほっ・・失礼しまあッス」
睨みが効いたのか、謎の人物は腰をくねらせ足元のおぼつかない様子で、冷や汗を垂らしながら一目散に走り去った。