屋台は繁盛していたが、やがて美味そうな匂いとともに湯気の立つ出来立ての醤油ラーメンの丼を手に並んで席についた二人は、挨拶を交わすとしばし無言のまま久しぶりの屋台の味を堪能した。(-2,000)
猫舌とは思えない潔さで熱々の中太ちぢれ麺を豪快にすすり、和風出汁のきいたスープをゴクリと飲み干すとまさに生き返った心地がした。
「はあ~やっぱここのラーメンは美味いなあ・・夏場のラーメンもまた格別だぜ・・なに?黒崎さんも良くここに来てたの?」
壱哉と共に好物を食べられることに喜びを感じながら興味津々に問う新に、己のペースで麺を啜っていた壱哉は箸を止めると答えた。
「ああ以前な。・・・評判通りの美味いラーメンが食べられるからな。・・もっとも家食が多いから月に3,4回のペースだったが」
「へえ~?」
常連というほどの頻度ではないものの、定期的に訪れていたことに驚きながら、それでもやはりなんとなく嬉しさを感じながら、すぐ隣に壱哉の体温があることに改めて新は安堵していた。
(なんでだろ・・?年上でしかも男だし。・・大人なのに目玉焼きもろくすっぽ焼けねぇぽんぽこぴーなのにな?)
そう思えば戸惑いも感じたが、やはりいっこうに腹は立たなかった。そしていつの間にか押しかけ居候である壱哉の存在を必要としているのだと自覚した新は動揺せずにはいられなかった。
一方、壱哉もまた久しぶりの味に既視感を覚えていた。
(最後に来たのはいつだったか・・・新にせがまれ前にこの場所でラーメンを食べたのはもう随分昔に思えるな)
頻繁に来られなくなったのは、壱哉が新と共に東京で暮らすようになったからだった。
家事を率先してこなしてくれる新への労いもこめ、互いの時間が空く週末には二人きりで外食することもあったが、さすがにここまで足を延ばすことはなくなっていた。距離は関係なく、新は新しい環境に慣れるために必死だったし、壱哉にとっては憂鬱なしがらみ深い因縁のある土地だったからだ。
(それなのに・・俺だけ食べてすまないな・・・新)
『ずりぃよ、黒崎さん』(+200,000)
そう言ってむくれる新の顔が浮かんでしまい、壱哉はかすかに苦笑をもらすと、しばしの感慨に浸った。