三日目/夕方
「ただいま~・・・いや~今日も暑かったなあ」
昨日とほぼ同じ時刻に帰宅した新は、早々妙に上機嫌の壱哉に呼びとめられた。
「おかえり・・新、ちょっといいか?」
「なに?」
(?・・・なんかイイことあったんかな?)
内心首を傾げながらローテーブルの前の定位置に陣取った壱哉の向かいにドカリと腰を下ろした新の眼前に真新しい食器がズラリと並べられた。
茶碗に湯呑に箸・・それぞれ二揃えずつあった。
「・・・どうしたんだよ?これ・・・もしかして今日出かけた時に買ったのか?」
すると壱哉は機嫌よく頷くと言った。
「ああ・・前にお前の茶碗・・俺が割ってしまっただろう?・・だからこれは俺からの詫びだ」
「・・・えっ
」
とっくに水に流していて壱哉に言われるまでそんなことがあったことすら忘れていた新だったが、明らかに元の自分茶碗と目の前の茶碗では風格が違うことに気おくれしていたのだ。
(なんか・・高そうだな。俺の茶碗なんて100均で買った安モンだもんなあ・・うう、どんだけ差があんだろ。そう思ったらかえって悪いことしたような気いすんな
)
まるで性質の悪い泉の精に遭遇した気分だった。
安価な大量生産品の茶碗を落としたと思ったら、高級茶碗を押し付けてくるアレだ。
(でも黒崎さんの嬉しそうな顔みたら『いらない』なんて言えないよなあ。しかもお揃いってのがなあ・・な、なんか『夫婦茶碗』みてぇ)
気恥ずかしくもあり素直に受け取っていいものかと逡巡する新の迷いを察したのか、壱哉が不安そうな面持ちで言った。
「・・気に入らないか?」
「そんなことね~よ!・・じゃ、さっそく使わせてもらうよ。・・・ありがと、黒崎さん。・・・にしてもこの茶碗高そうだよなあ」
「・・お前の名前に因んでみたんだが。・・・洒落だ」
茶碗の種類など知らなかったがなんとなく興味を惹かれてなにげなく尋ねた新に、壱哉は意味深な笑みを浮かべたまま答えてくれた。