樋口と別れた壱哉は気を落ちつけると、再び商店街の店を見て回ることにした。正直買い物の気分は失せていたが、今帰宅したところで、新には会えずまた再びこの場所を訪れることができる保障もなかったからだ。なによりもこんな不埒な気分のまま新の前に顔を出すことは躊躇われた。
「・・そうは言ってもどこに行くかな?」
着の身着のまま新の部屋に転がり込んだ以上、補充したいものはたくさんあった。とはいえ、代価として自身の魂を支払わねばならない以上、半端なものを求める気にはならなかった。
「・・着替えは欲しいところだが」
しかし常にオーダーメイドの一級品を愛好する身としては、商店の店先に飾られたスーツとは名ばかりの安価な品に飛びつく気もおきなかった。
(・・・シュールだな。いったい誰がどんな状況で着るんだ?・・理解できんぞ)
首を傾げる壱哉の脳裏に、ふとスーツ姿の新の姿が浮かんだ。無事大学生にでもなればスーツも必要だからと、壱哉がプレゼントした時のだ。
『へえ・・・なんか照れんな。・・ん、やっぱちょっとネクタイって首がきついかも。・・ど?黒崎さん・・感想は?』
小柄で細身の体にスーツを着てめかしこんだ新の姿を前に、壱哉は頭の中で勝手に先ほど自分が結んでやったネクタイを悪戯な指先で解く様を想像しながら、おくびにも出さずに答えてやった。
『ネクタイは慣れだ。いずれ社会に出たら日常的に着なきゃならんのだから今のうちに慣れた方がいい。それにしてもすごくよく似合ってる・・・馬子にも衣装とはよく言ったものだな』
『なんだよぉ・・それ、褒めてるかあ?』
可愛く拗ねた後、すぐに屈託のない笑顔を浮かべた新の姿を思い出し、壱哉は先ほどの樋口との邂逅では感じなかったものが心のうちにゆっくりと満たされていくのを感じた。
(+200,000)
その時、新との思い出に浸る壱哉の視線の先のショーウインドーに展示された『夫婦茶碗』が目に飛び込んできた。すると連鎖的に初日の失敗を思い出した壱哉は、居てもたっても居られずに店に入った。
店は閑古鳥が鳴いていたが、すぐに愛想のよい年配の店員がやってきた。
「・・揃いの茶碗を探しているんだが・・この店で一番上等の奴を頼む」
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言った途端、それまで穏やかだった店員の様子が変わり、商魂たくましい商店の親父と化した。
壱哉の鶴の一声で、様々な産地の茶碗が取り揃えられた。
「それで、お探しの品は『夫婦茶碗』でよろしかったんですね?」
親父に改めて問われた壱哉は真顔で思案した。
(『夫婦茶碗』・・いい響きだ。ぜひそうしたいところだが・・確かそうなると茶碗のサイズが違ってくるんだったな)
育ち盛りで食欲旺盛な新にはぜひ大きな茶碗で食べてほしいところだった。しかしそうなると自分の分が物足りないサイズになってしまうのだ。
(いや・・まてまて・・そうなったらなったで新についでもらうという手もあるのか)
『・・・はい、黒崎さん・・いっぱいおかわりしてくれよな?』
脳内劇場ですっかり幼妻と化した楚々とした新に飯をついでもらう想像に酔いしれる壱哉の、尋常ではない瘴気にあてられたのか親父が恐る恐ると言った具合に付け足した。
「
・・・なんでしたら、揃いの茶碗でもお求めになれますよ?単品価格でのご提供になりますがね」
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幾分冷静さを取り戻した壱哉は店員のアドバイスに従い落ち着いた色合いの茶碗を二客買い求めた。(-20,000)
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(・・・そういえば・・いい加減割り箸を使うのも面倒だ)
「ついでに揃いの箸もみせてもらおうか」
ズラリと並べられた色とりどりの箸の中から、壱哉は直感に従い黒と緑の紫檀の高級塗り箸を二膳選んだ。(-10,000)
すると、店員は人の好い笑みを浮かべながらさらに勧めてきた。
「・・新婚の方にはお揃いの湯呑なんかも人気ですけどね。・・・よろしかったらご覧になりますか?」
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「見せてもらおうか」
壱哉が店員に勧められるまま揃いの湯呑を二客買い求めたのはいうまでもなかった。
(-20,000)
(ふっ・・・いい買い物ができたようだな。・・・そろそろ帰るか)
◆黒崎壱哉はアイテム【揃いの茶碗】を入手した!
◆黒崎壱哉はアイテム【揃いの箸】を入手した!
◆黒崎壱哉はアイテム【揃いの湯呑】を入手した!
!行先に※【樋口生花店】が追加された
※実在する店名とは関係ありません。またゲーム中にも登場しないこの作品だけの設定です