八つ当たりするかのようにグサグサとフォークでレタスを刺し、多少型崩れしていても絶品のオムレツを無言で掻き込む新をそっと窺った壱哉は嘆息した。



一方新もまた昨夜から続く気まずい空気の中で朝食を摂りながら必死に平常心を取り戻すべく努力しながら、元凶であるにも関わらず平然と食事を摂る壱哉をねめつけた。



非難するような視線に気づいたのか、壱哉が幾度目かの謝罪を口にした。



「・・・すまない。驚かせたなら謝る・・・着替えを持ち合わせてないから・・残り少ない石鹸で洗濯しようかと試みたんだが・・・慣れないことはするもんじゃないな・・泡で滑ってしまったんだ。・・・そしたら丁度お前が顔を出したから咄嗟に巻き込まないように動いてみたんだが・・かえって迷惑をかけてしまったな」(-100,000)



そうまで年上の壱哉に下手に出られてしまっては、新は怒っているのが馬鹿らしくなってしまった。気まずい面持ちながら、謝罪を受け入れた新は、少しだけ拗ねたように言った。



「・・・もういいよっ・・事故ってことで忘れることにするからさ。・・・怒って悪かったよ・・にしてもさあ・・洗濯も自分でやらないってどんな生活だよ?」



呆れたような新の態度に、壱哉は躊躇いがちに答えた。



「・・・・スーツはクリーニングに出すし、それ以外は・・・その、秘書の吉岡に・・」



言った途端、新はさらに呆れたようにため息をつくと無言でトーストを齧った。

新の心情を悟りそれ以上は言えなかったが、実質身の回りのものの洗濯は、()が率先してやってくれているのだと知ったら、この少年はどんな反応をするのだろうか・・?



怒りながらも、元来面倒見の良い性格なのだろう・・卵料理を好きだと言った言葉を覚えていてくれたゆえか、はたまた偶然かはわからなかったがこうして朝食を作ってくれた新に壱哉は感謝していた。



「・・・それにしても新、このオムレツ美味いぞ?・・・俺の好物なんだ」(+100,000)



褒められ慣れていないのか、壱哉の言葉に頬を染めたまま新はそっけなく答えた。



「そ~かよ。・・・ところでさ・・しばらくここに居んならさ、どっかで着替え調達すれば?・・・俺んじゃ小せぇもんなあ。好みだってあんだろうし」



すっかり気を取り直したのか、いつもの調子で言う新の言葉に壱哉は咄嗟に答えにつまってしまった。



(着替えは欲しいが、俺はこの場所から出れないようだし・・・どうしたものかな。そういえば、初めて新が俺の部屋に泊まった翌朝だったな・・・あれは)



当面の問題を解決する術を持たない壱哉の脳裏に、かつて包み込むような寛容さを示してくれた()の姿が浮かんだ。



壱哉に作業着を台無しにされ着替えを持たなかった新が、壱哉のシャツを羽織りキッチンに立ちみそ汁を作るその姿を見たときの感動はこれからもけっして忘れないだろう。



(あいつに酷いことをした俺を許してくれて・・俺を一人にしないと誓って抱きしめてくれた)(+200,000)



壱哉の追憶は目の前の新によって破られたが、あの時感じた渇いた心を満たした温もりは壱哉の中に確かに残っていたのだった。