「…そういえば、シャンプーとリンスが切れていたようだが」



今朝、まだ新が寝ている間に無断でシャワーを借りた壱哉だったが、風呂場の少なくとも目につくところに洗髪に必要なアイテムがなかったのだ。普段は消耗品の手配は吉岡に任せており、さすがにそこまで無理を通すつもりはなかった壱哉だったが、とはいえ湯で洗うのも限界はあった。



さて、どうするかな



★新の様子を伺う(+400,000)



「さりげなく・・・さりげなく」



壱哉は風呂場のすりガラスの前に立つと、気配を殺しそっとドアを開いた。



!!



(湯気で見えんぞ・・・)



やがてゆっくりと石鹸の香りの湯気が晴れ、狭い浴室の中の様子が見えてきた。



(おおっドキドキ



どうやら新はこちらに背を向け風呂椅子に座り体を洗っているところのようだった。その泡にまみれたすべらかな背中に口づけたい衝動を必死に抑えながら、さらに様子を伺うに留めるには壱哉にとってかなりの忍耐力を要することになった。



狭い浴槽に湯は溜まっておらず、さらに狭い洗い場でシャワーのみで済ませる気なのだろう。機嫌よく鼻歌を歌いながら石鹸を擦りあわせたかと思うと、なんと次の瞬間濡れた素肌や頭に石鹸の泡をなすりつけ泡立て始めたのだ。



!!!



(なっ!?・・・ま、まさか石鹸で全身洗っているのか・・新?・・くっ・・それにしても新の柔肌に触れるとはなかなか羨ましい石鹸だな)



それはさておきそのあまりの逞しさに壱哉は最早言葉もなかった。



(どうりでシャンプーとリンスが置いていないわけだな・・・郷に入っては郷に従えとはなかなか難しいものだ)



「・・・ん?」



その時、何者かの気配を感じ取ったのか、髪を泡立てていた新が訝しげな面持ちで振り返った。しかしすでにサッと素早い身のこなしで壱哉の姿は消えており事なきを得たのだった。



「まさに・・間一髪だったな。さすがにまだ変人のレッテルは張られたくないからな」



満足げな笑みを浮かべたまま、壱哉はカードの残高を確認した。



800,001



「・・チャージできたようだな・・上々だ。・・・これぞまさに魂の洗濯(・・)というやつだな」



壱哉の下心も知らず、石鹸の香りを漂わせた新が爽快な面持ちで浴室から出てきた。



「はあ~さっぱりしたぁ・・あ、黒崎さんも入ってきなよ?」



風呂を勧められ心ひかれた壱哉だったが、特別(・・)()()を除けば朝風呂を好んでいたこともあり、やんわりと断ると新をみやった。実をいうと、先ほど存在が消えかけた身としては少しでも新の傍にいたかったからというのもある。



「いや、俺は朝入ったからやめておく・・それより、お前が夕飯つくるところ見てた方がいい」



すると、新はどこか照れを含む困ったような顔で笑った。



「・・・変なの。・・・好きにしなよ。じゃ、俺メシの支度すっから・・あ、メシ炊いてくれたんだな?・・ありがと」



「ああ・・たいしたことじゃない」



口調とは裏腹に得意げな壱哉の様子に苦笑しながら、新は機嫌よく言った。



「ちょっと見直したぜ。・・・もしかして洗剤とか入れたらどうしよ~とか不安だったんだけどさ?」



ぎくっ



新の言葉に壱哉が密かに動揺したのは言うまでもない。