深夜



「・・・・暑い」



逞しく環境に順応してすやすやと寝息をたてる新を横目に見やった壱哉は、あまりの蒸し暑さに眠ることができずにいた。



壱哉は剣呑な眼差しをフル稼働する扇風機に向けながら、先ほど食事しながら交わした会話を思い返した。



「・・・扇風機か・・・子供の時以来だ」



ひとりごちた壱哉の言葉を耳ざとく聞きつけたのか、新が肩を竦めながら言った。



「そんなに珍しいもんでもないだろ?・・・それさ、リサイクルショップでバイトしてた時に安く手に入れたんだ。俺だってエアコンは欲しいけどさ・・・高いし。それに暑いのはわりと平気なんだ」



少し得意げにはにかんだ笑みを浮かべる新の言葉に、壱哉は()と過ごした親密なひと時を思い出していた。



『・・・新、寒いならもっとこっちに寄れ』



エアコンの効きすぎた寝室で寒さに身を震わせる新の小さな肩を抱き寄せた壱哉の下心を見抜いたかのように新が膨れっ面で口を開いた。



『ったくぽんぽこぴー・・・黒崎さん、わざと温度下げてるだろ?・・俺、あんまクーラー慣れてないんだ。・・・暑いのは平気なんだけどさ』



その拗ねた愛おしい表情に和みながら、壱哉はお茶を飲む新に言った。(+200,000)



「新は逞しいな・・俺も子供の頃はよく扇風機を使っていたんだぞ?・・・母が冷え症でエアコンが苦手な女性(ヒト)だったからな」



母は父が訪れる時だけはエアコンをつけ、暑がりの父のためにじっと寒さに耐えていたようだった。それを知ってか知らずか、気まぐれにエアコンを切らせた父は縁側で母の膝枕で寝転がり団扇で扇いでもらいながら、まるで幼い壱哉にその睦まじさを見せつけるかのように我が物顔で寛いでいた姿まで思い出し、胃の腑がチリッと焼け付く心地がした。



「寒がりな人っているよな。夏でもカーデガンとか手放せなかったりしてさ・・まあ俺は慣れてないだけだけど。あ~でもやっぱエアコン欲しいなあ・・頑張ってバイト増やせば来年こそ買えんかなあ」



前向きな新の言葉に過去の妄執を振り払った壱哉は、ただ一言『頑張れ』と呟いたのだが・・・・



『ふふ・・壱哉はお父様そっくりね・・本当に暑がりなんだから・・困った人』(-100,000)



脳裏にこだまする、目の前の息子をとおしひたすらあの男の面影を追い求め一途に慕う、呪縛のように纏わりつく母の言葉を壱哉は必死に打ち消しした。



「・・・暑い、暑すぎる。・・・俺はアイツほど暑がりなんかじゃないし、断じてアイツ似なんかじゃないぞ」



不快感をもよおす実父の面影を脳裏から振り払った壱哉は、まるでそうすれば効果が増すとでもいうかのように布団から這い出ると闇の中で目を凝らし扇風機のボタンを連打したのだった。



「こらっ・・・もっと頑張れ・・ドライヤーに負けてどうするっ・・ポンコツでもやればできるって根性を見せてみろっ」



出来の悪い子に言い聞かせるように脅したりすかしたりした挙句、長年幾多の所有者に酷使され負荷に耐え忍んできた扇風機についに限界の時がきた・・・・



むかっ



ぷすっ・・ぷすっ・・ぷしゅ~~~っ



「・・・なに!?・・・なに止まってるんだっ・・冗談はよせっ・・・笑えんぞ」



みるみる速度が減少した羽はやがて完全に動かなくなり、誰の目から見てもそれは明らかな故障だった。



◎人物難LV.2発動

!黒崎壱哉は【扇風機】を壊した。



「って・・俺のせいか!?・・・俺が悪いのか!?」(-300,000)



焦り動揺する壱哉の気配に、横向きのまま熟睡していた新が目を覚ましムクリと身を起こした。寝ぼけ眼で無意識に明かりを点けた新だったが、壱哉を問いただすまでもなくその惨状が目に飛び込んできたのだった。



ビックリマーク



「ったくこんな夜中になんの騒ぎって・・・ああ~っ!!?扇風機からなんか変な煙出てる!?今度はいったいなにやらかしたんだよっ黒崎さん!!?ああっ・・火事んなっちまう・・・そ、そうだっ・・コンセント抜いてっ!!」



眠気が一瞬で吹き飛んだ新の素早い対処のおかげで被害は扇風機の故障だけで済んだが、二人を待ち受けていたのは不毛なほど過酷で長い熱帯夜だった。



「・・・あつい~・・も、ひっつくなってっ」



いくら暑さに慣れているとはいえ窓を開け放しても夜が更けて尚いっこうに涼しくならず、掛布団を蹴り飛ばし完全にグロッキー状態の新に壱哉は肩身の狭い思いをしながらひたすら謝罪することしかできなかった。



「・・・すまん。・・・まさかあれしきのことで壊れるとは・・寿命だった・・あ、いや・・反省してるから」



新の無言の殺気を感じ、さらには追い打ちをかけるかのように騒ぎに驚いたのか鳴きやんでいた蝉までもが忙しなくミンミンと鳴きだし体感温度が上がった心地がして一晩中辟易とさせられたのだった。



!1,500,001SG

!行先に【新のアパート】が追加された



一日目終了





※S・G残高表記は前後します。間違っていたら申し訳ありませ~ん