ネピリムの仕掛けた悪夢の夕食など消し飛ぶほどの満足感と幸福感に満たされたまま食事を終えた壱哉は、テーブルを片づける新を興味深そうに見やった。



「新、食器片づけるなら俺が拭こう」



新と出会うまでおよそ家事炊事の類は一切手を出したことのなかった壱哉だったが、恋人に触発され家事の真似事をするようになっていた。もちろん完璧とは程遠く、むしろ新の仕事を無駄に増やしてしまう嫌いがあったがそれはご愛嬌である。



しかし生憎目の前の新は、社長であり成功者でもある寛大な黒崎壱哉に一定以上の尊敬の念を抱いており、まさか自ら『ぽんぽこぴー』と命名したことなど知る由もなかったので、壱哉の申し出を快く受けたのであった。



・・・そして



◎人物難LV.1発動



ツルッ



「わ・・・わあっ・・なにやってんだよ黒崎さんって・・・ああああ!?」



ガシャーン!!



案の定とでも言おうか・・・残念な壱哉の内情を知る人々の予測通り、宙を舞った新の茶碗は孤を描き重力の法則に従った結果・・・無残にも砕け散ったのだった。



「俺の茶碗~~!」



いきなり醜態を晒してしまった壱哉は、新の自分対する尊敬の念が薄れたのではと内心動揺しながら神妙な面持ちのまま謝罪した。



「・・・すまない」(-100,000)



叱られた子のようにどうすればよいかわからず悄然と立ち尽くす壱哉を尻目に、生来の忍耐強さを発揮してさっさと気を取り直した新は屈みこむと割れた陶器の破片を拾い集めだした。



「・・・ってぇ」



しかし慌てて素手で破片を拾ったのがまずかったらしい。人差し指の先端にチクリと痛みが走り、反射的に身を竦めた新の指先からゆっくりと玉のような深紅の滴が溢れ出した。



「どうした!?・・・指を切ったのか?」



怪我をした当人より動揺を露わにした壱哉は、新の細い手首を咄嗟に掴んだ。



さて、どうするかな



★新の指を舐める(+200,000)



「・・・・はむっ」



温かな口腔内にじくじくと疼く敏感な指先を包み込まれる感触に、新は咄嗟に息を詰めていた。熱い舌が傷ついた指の腹をねっとりと舐め上げる感覚は、忙しさにかまけて忘れ去っていた官能を否応なしに呼び起こすものだった。



「ひゃっ・・・・んんっ・・・も、もういいって!・・・黒崎さんっ」



ドサッ



カッと頬が熱くなるのが自分でもわかり狼狽えたまま必死に訴えると、名残惜しげにチュッと口づけるかのように指先に当たった壱哉の唇の感触に再び新は全身が総毛だつような感覚に見舞われたのだった。



「・・・血は止まったようだな。思ったより浅いみたいだが、きちんと手当はした方がいい」



先ほどまでの余韻は一切感じさせない真剣な面持ちで気遣わしげに言う壱哉に唖然としながらも、なんとか頷きかえした新だったが当然ながら心の中は混乱の嵐が吹き荒れていたのだった。



(びっくりした~・・黒崎さんいきなり人ん指舐めんだもんなあ・・・俺、あんなことされんの初めてだし、男に指咥えられて腰ぬけたなんて恥ずかしいったらないぜ。しかもすっげ~自然だったし。もしかすっと黒崎さんって・・すげぇ~天然かタラシかもな)



本能で危機感を募らせながら壱哉を分析する新の胡乱げな眼差しを知るはずもなく、当の壱哉は汚名返上とばかりに洗いかけの食器に手を伸ばしたのだが・・



「片付けは俺がやっておくからお前は休んでろ・・・っと、なんだ?やけに滑るコップだな。おおっ・・・今度は皿がっ・・」


汗


(・・・やっぱこのヒト『ぽんぽこぴー』決定!)



あっさりメッキがはがれ、さしもの新も壱哉に対する認識を改めなければならない気がしながら重い溜息を一つつくと、ようやっと落ち着きを取り戻した身を起こし壱哉に声をかけた。



「いいよ、黒崎さん。俺がやるから・・気持ちだけもらっとくからさ。ほらスポンジ貸してよ」



さすがに収拾がつかないと察したのか今度こそ壱哉は大人しく引き下がり、新を安堵させたのだった。