今となっては疑いようもないことだったが、先ほど口にしたのはネピリム印のきのこだったのだろう。



あのきのこを口にしたことで現実に作用して、恐らくだがネピリムの世界に引きずりこまれてしまったようだ。



「質問の多いヤツだ。お前に応えてやる義理などないが・・まあいい。オレ様は寛大だからな」



忌々しいほど得意げな面持ちでネピリムは腕を組むと、尊大な態度を崩さぬまま言い放った。



「いいか、一度しか言わないから良く聞け!ここはオレ様の作った、いわばあの世とこの世との狭間の世界リンボーだ。まあいうなれば『ぎりぎり地獄の一歩手前』と言ったところだ。もしこの世界で命を落とせば今度こそ貴様は地獄に落ちるだろう。ここで貴様が生き残れるかどうかは貴様の選択次第だと思え。」



「・・・・そうそう、それからこれは寛大なオレ様からの選別だ・・受け取るがいい」



組んだ腕を優美な仕草で解き、壱哉を指したネピリムの手にはいつの間にか深紅の薔薇が握られていた。



「黒崎壱哉!せいぜい・・・



この華麗なる俺様の下であがくがいいっ」



感情を高ぶらせたネピリムがその手を鞭打つように振るった途端、毒々しい芳香をまき散らす真っ赤な花弁がはらはらと渦を巻きながら舞い散った。



花吹雪がおさまった後、すでにそこからネピリムの姿は消えていたが、花弁で埋め尽くされた地面になにかが落ちているのに気付いた壱哉は拾うべく身をかがめソレに手を伸ばした。



黒崎壱哉はアイテム【謎の黒いカード】を入手した!



「・・なんだこのカードは・・むっ・・なんだか精気が吸い取られるような」



それは真っ黒な名刺大のカードだった。材質も不明、用途も不明だったが、手にした瞬間ぴりぴりっと静電気のような感覚が四肢に走り、壱哉を困惑させた。



悪魔が寄越したものである以上、真っ当なものであるはずがなかったが無視する気にはなれなかったものの、明らかな説明不足に苛立ちを覚えながらためつすがめつしていると、どこからともなく声が聞こえてきた。



ネピリムの声

『それはこの偉大なるオレ様の力で貴様の魂を具現化したものだ。せいぜい(ソウル)ゲージ(S・G)を使いまくりさっさと地獄に落ちるがいいっ』



ネピリムの言葉に呼応するかのように先ほどまで何も表示されていなかったカードの片隅にS・Gの文字が現れたのを確認した壱哉はカードを至近距離で睨み据えた。



「お、なんか表示されたようだな・・ってだと??」



確かめるようにSGカードに目を凝らした壱哉は愕然とした。とはいえネピリム印の曰くつきのきのこを食べ、ネピリム謂うところの『ぎりぎり地獄の一歩手前』に突き落とされた身としてはやむを得ないのかもしれなかった。



「ふっ・・・まさに俺の命は風前の灯というわけか。ネピリムめ、相変わらず容赦ない奴だ」



それでも壱哉が不遜な態度を翻すことはなかった。



「・・・ビンボー(・・・)だかなんだか知らんが、なるほど・・・もし俺がこいつを使って薔薇色の日々を望むなら命がけというわけか・・面白い」



そう思えばなんだか懐かしさがこみあげてくる気がした。


平穏な生活で忘れ去っていた闘争本能が目覚めるのを自覚してシニカルな笑みが浮かんだ。



(違うのは今度の奴の獲物がはなから俺だということだけか)



相手に不足はなかったし、一度は退けた相手だけに不安もなかった。



とはいえ、事態は深刻でありネピリムに捕まった吉岡の安否も知れず、新に至っては行方すらわからない有様だった。



それにも関わらず、壱哉は自分がこの状況を楽しんでいることに気づき苦笑をもらした。



なぜなら離れていても新や吉岡と繋がっているという確信があったからかもしれない。



「俺たちの絆の強さを必ず俺は証明してみせる。待ってろよ・・新、吉岡・・・俺は絶対にお前たちを取り戻してみせるからな」



(・・・これでいい。今はよくわからんがそのうちこれの使い方もわかるだろう)



決意を秘めた面持ちで今一度カードを見やった壱哉は、心臓に近い場所・・スーツの内ポケットに大切そうに仕舞い込んだのだった。