翌朝・・樋口花壇
溶けた雪とまじりあい濡れて剥き出しになった地面と、脇にこんもりと積まれた雪山を満足そうに見比べた樋口は、持っていたシャベルを新雪で覆われた地面にサクッと挿すと痛みを訴える腰をさすりながら大きく一つ伸びをした。
樋口
「はあ~雪かき終了っと~・・お、そういえば吉岡さん車届けてくれたんだっけ・・どれどれ一応確認しとくかな」
ガラッ
郵便受けから回収した鍵を手に配達用のワゴン車の扉を開けた樋口は一瞬にして固まった。
樋口
「・・・・・・・・」
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樋口
「・・・なんでここにっ!?」![]()
車内に我が物顔で鎮座していたのは、例の
の抱き枕だった。
樋口
(うわっ・・こっち見てるよ。なんか凄まじい気迫を感じるなあ・・
)
リアルな分、そんな錯覚をしてしまうほど樋口の心に迫るものがあった。どうやら吉岡が抱き枕の愛用者でないことだけはさすがの樋口にも理解できた。回りまわってまさか自分のところへ来るとは思いもかけなかったが、これも何かの縁なのだろうと納得した樋口は、主を待つ抱き枕へと手を伸ばした。
樋口
「なんだ、お前捨てられちゃったのかい?可哀想に・・よし、今日からお前はウチの子だ。今夜から一緒に寝ような?カニ美
」(やっぱコイツ抱き心地最高だ~・・雪かきで疲れた俺を癒してくれ~カニ美
)
ささやかな幸せに浸り満更でもなさそうな樋口はさておき、
一方、黒崎家の面々はというと・・
報告を聞き安堵の溜息をついた吉岡は、冷静沈着な面持ちで部下を労うとひとりごちた。
吉岡
「![]()
一也君には申し訳ないですが・・これで今夜から安眠できます」(樋口家に車の手配をさせていた部下に大至急回収させたかいがありました。我ながら名案でしたね)←けっこう酷い
ソファに腰掛け優雅に足を組みかえた壱哉は、新に淹れてもらったほうじ茶を啜りながら内心ご満悦な吉岡の様子を伺うと苦笑を漏らした。
壱哉
「・・・吉岡、大人げないぞ
」(俺には抱き心地最高の新がいてくれるから別にかまわんが、吉岡が公私混同するのはめずらしいな。うん?・・昨夜つけたキスマークが良い感じだな
)
壱哉と並んでソファに腰を下ろし、やはりほうじ茶を啜った新は肩を竦めながら口を開いた。
新
「
・・・しかたねぇよ、一也はがっかりすんだろうけど・・でもまあエプロン兄ちゃん喜んでるし、これで良かったのかもな?」(む、黒崎さんから邪な視線を感じるぜ。・・・ま、まあいいけどさ・・昨夜ここで・・俺、この人と
だもんな・・へへ
)
新から発散される甘い雰囲気を感じ取ったのか、湯のみをテーブルに置いた壱哉は傍らに身を寄せた恋人の細腰を優しく抱き寄せた。
壱哉
「新・・昨夜は可愛かったぞ
」
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突然耳元で囁かれた新は瞬時に頬を上気させると、ひゃっ
と小さな悲鳴をあげ壱哉をいたく満足させたのだった。
幸せな恋人達はさておき、
一方、山口家では一面の銀世界に感嘆の溜息をもらした父親が、眠る息子を優しく起こしていた。
山口
「・・・一也、起きて。外を見てごらん」
温かな布団から出し渋っていた一也だったが、開いたカーテンの脇に立つ父親に促がされ、窓の外に広がった光景を目の当たりにした途端、その大きな目が見開かれた。
一也
「雪だ~!すごいすご~い!」
頬を火照らせ凍った窓ガラスに両手をつき、隣家の屋根に積もった雪を指差しながらはしゃぐ一也の小さな肩にカーデガンをかけてやった山口は、息子の興奮がうつったかのように嬉しそうに吼え立てながら盛んに尻尾を振り、くるくると回り飛び跳ねる愛犬を宥めるように撫でてやったのだった。
早朝から雪かきに精を出す者、大切な相手と温かな居間でゆっくりと過ごす者、家族の巻き起こす賑やかな朝の光景に目を細くする者、
・・・その街のあちらこちらでささやかな幸せを囲む人々の姿があった。
樋口
「って終わり!?俺の相手ってカニ美だけ!?え~~!?」![]()
おしまい
捨てる
あれば拾う
あり![]()