壱哉が追憶に浸っていた頃、いつも通りポーカーフェイスで話す吉岡の様子をこっそり伺いながら新は密かに嘆息していた。




(・・・吉岡さん顔色まだちょっと悪いな。・・無理もねぇか汗



少し前のことだ。山口親子、とりわけ息子の一也が新だけではなく、お気に入りの吉岡にもプレゼントを用意していたのが悲劇の始まりとなった。



一也

『はい!吉岡くんにこれ、あげる~いつか家まで送ってくれたお礼ドキドキ



頬を上気させ大きな瞳をきらきらさせた一也が差し出したモノが吉岡を凍りつかせたのだった。



吉岡

『!!!・・・・・・・・』ガーン




『・・・・・?』



蒼褪めた顔で脂汗をたらしながら硬直した吉岡の背後からひょいっとその物体を覗き込んだ新は瞬時にして状況を飲み込むことができた。




((げっあせる・・・よりにもよってソレかよっ!どーすんだろ、吉岡さん・・・ゴクリッ))



内心突込みをいれながら、新も息を呑み状況を見守ることしかできなかった。



一也

『?・・・吉岡くん?もしかしてこれ・・嫌い?』←ピュアさ100%の蜂蜜罠



純粋な子供の眼差しを前に吉岡はどうすべきか必死に逡巡した。もし拒否すればいたいけな幼子の厚意を無下にすることになってしまうし、それはとても大人気ない行為に思えた。



しかし!!しかしだ!!



吉岡

((よりにもよってなぜソレなんですかっ!?ヌイグルミなら他にいくらでもあるでしょうっ!!アザラシでもトドでもラッコでも~~~))



声なき声・・いや心の声がいつの間にかダダ漏れていたらしい、一也が得意げに訂正した。



一也

『吉岡くん、違うよ?これ抱き枕なの~』



それは特大サイズのリアルなかに座の抱き枕だった。つぶらな瞳と目が合った瞬間、吉岡は全身総毛立つのを感じた。



吉岡

((ああああっ・・・ごめんよ・・・カニ太郎っ・・))



絶句したままの吉岡に一也が無邪気に言いきった。



一也

『だって吉岡くん、かに座座でしょ?』←悪意ゼロ



ビックリマーク



吉岡

『い、いえ・・私は・・』((かに座ではありませんっ・・・くっ・・・言えない、言えば子の子が傷ついてしまうだろう。壱哉様、私はどうすれば良いのでしょうか?ううううっうがっ))



そして半ば押しつけられるようにかに座の抱き枕を受け取った吉岡の意識はそこでぷつりと途切れたのだった。



樋口

『なになに・・これであなたも安眠できます。・・確かにものすごい効果だったね』((あ、甲羅のトゲトゲにツボ押し効果もあるのか・・お、気持ちいい。・・それにしてもいつもクールな黒崎があんなに慌てるなんてなあ・・偉そうにしてても本当はあの秘書さんのこと大切に想ってるってことだよな。やっぱアイツ、ツンデレだったのかラブラブ))



抱き枕を抱え、添付された説明書を手に感心する樋口の言葉を思い出した新は再び大きな溜息をついた。




(ホントさっきはびっくりしたぜ、かに座の抱き枕抱きしめたまま吉岡さんいきなり泡吹いてぶったおれるんだもんな。動揺する黒崎さんを山口さんが宥めてくれて一緒にベッドまで吉岡さん運んでくれたから助かったけどさ、苦手なもの内緒にするって約束したからエプロン兄ちゃんには言えねぇし汗



樋口

「吉岡さん・・もう大丈夫なんですか?」(こんなこと言ったら失礼だけど・・・ちょっと意外だったよなあ。何事にも動じない人だと思ってた。・・それにしても吉岡さんに何があったのかなはてなマーク



吉岡

「・・・いえ、お見苦しい所をお見せしました」(樋口崇文、あなたに心配されるとは・・・不覚です) メラメラ



山口

(殺気!?・・・・これは話題、変えた方が良さそうだな。それにしてもまさか吉岡さんがカニが苦手とは思わなかったよ。アレルギーでもあるのかな。一也に悪気はなかったとはいえ悪いことしたなあ。保護者として謝りたいとこだけど・・触れないほうがいいんだろうね汗



はしゃぎ疲れたのか、毛布に包まり安穏と眠る息子の寝顔を見遣った山口は苦笑をもらしたのだった。