お詫び・・カフェリンドの23及び25は掲載を控えさせていただきますのでご了承くださいしょぼん






桐野サイド






激しく求め過ぎたかもしれない。私より体力のない榛名が消耗してしまわないか心配だったが、私の肩に頭を寄せた榛名の顔は満ち足りた顔をしていて、私もまた同じだったから・・これで良かったのだろう。


こうしてまた愛する榛名をこの腕に抱けたことは、私に忘れ去っていた至福の一時を与えてくれるものだった。それというのも臆病な私に・・榛名が勇気を与えてくれたから・・失ったと思っていた情熱を思い出させてくれたから・・


・・・だから・・もう二度と離さない。


・・失いたくない。


歳月は私を変えたが、それはまた同じ過ちを繰り返さないだけの分別を私に与えてくれたのだと思いたい。


情熱を損なうことなく、決して独り善がりになることなく・・・今度こそ恋人を幸せにしたい・・


私より遥かに年下なのに、少しだけ大人のこの青年と一緒なら・・・


想いを形にできる・・・そう思えた。




榛名サイド


翌早朝


芳しい香りに包まれる夢を見ていた俺が目を覚ますと、夢で嗅いだのと同じ香りが辺りに漂っていた。


(・・・あ、これコーヒーの香りだ)


カフェ・リンドバーグで馴染みの、俺の好きな香りだった。


(もしかして!)


「・・ああ、目を覚ましたのですか?」


期待を胸に身を起こした俺を、ベッドに腰を下ろした桐野逸樹が静かに俺を見下ろしていた。


「・・おはようございます、榛名。・・良く眠れましたか?」


俺の頬にそっと触れながら逸樹が穏やかな声でそう言った。


「うん・・おはよう・・・逸樹・・んっ・・」


それは俺が夢にまで見た恋人として迎える朝の情景だった。気恥ずかしさと満足感と・・俺を満たす様々な気持ちを実感しながら、朝の挨拶を返す俺の唇を逸樹が優しく奪った。


情熱の名残を秘めた口付けから解放された俺の息は上がってしまったけれど、照れ隠しと好奇心もあってさり気なく逸樹の意識をそらすように呟いた。


「・・コーヒーの香りがする」


すると、逸樹が穏やかな笑みを浮かべたまま応えてくれた。


「・・・ああ、コーヒーを入れたのですが・・飲みますか?榛名」


(逸樹のコーヒー・・)


「・・・うん、飲みたい」


香りに誘われた俺は待ちきれないように頷き返した。


「少し待っていてもらえますか?」


そう言うと逸樹はベッドから下り部屋から出ていった。部屋に残された俺は待つ時間も惜しまれて裸足のままベッドを下りると、きちんとサイドテーブルに畳まれてあったシャツを素肌に羽織り、逸樹の姿を探して部屋を後にした。


―――!!!


廊下で洗面所から出てきた一之瀬さんと遭遇してしまい、俺は内心動揺することになった。


「あ・・・おはよ」


俺の姿を一目見て事情を察したのか、一之瀬さんは微かに頬を赤くしながら気まずげに目をそらしてしまった。


俺の方は一之瀬さんの視線から激情の名残の散った素肌を隠すようにシャツの前を合わせながら、恋人の同居人に遭遇してしまった気恥ずかしさに耐えていた。


「・・・マスターならキッチン・・そこ・・入ったとこいるから・・」


言葉は少ないが察しの良い一之瀬さんに礼を言って踵を返そうとしたら、背後から遠慮がちな声がかかった。


「・・・また・・うちの店来る?」


俺が笑顔で頷き返すと、一瞬一之瀬さんの頬がさらに赤くなった気がしたが、俺は挨拶もそこそこに一路キッチンへと向かった。



キッチン


俺のワンルームマンションとは比べるべくもないが、逸樹の手入れが行き届いた使い勝手の良さそうなキッチンに入ると途端にコーヒーの芳しい香りに包まれ俺は幸せな気持ちになった。


「・・おや、来たのですか?丁度良かった・・はい、どうぞ・・熱いから気をつけて・・」


スラックス姿に逞しい胸板を覗かせ、素肌にシャツを羽織った姿で慣れた仕草でコーヒーを入れる逸樹に見惚れていると、待ちに待ったコーヒーが目の前に差し出された。


「・・・ありがと。・・いただきます」


礼を言って素焼きのマグカップを受け取った俺は、芳ばしい香りを楽しみながらコーヒーに口をつけた。


「・・・やっぱり、逸樹の入れたコーヒーは美味しいな」


お店では一杯1000円はするものを恋人()料金()で飲めるのは嬉しかったけれど、同時に申し訳なくもあった。プライベートだからといって決して手を抜かないプロの仕事に満足しながら俺は逸樹の入れたコーヒーをゆっくりと味わった。


「・・・これからはいつでも榛名の飲みたい時にいれてあげますよ。店でも・・・プライベートでもね」


――――逸樹!!


そう言って微笑む逸樹の笑顔が・・俺にはなによりも特別な贈り物だった。


随分遠回りしてしまったけれど少しだけ素直になれた俺は、夜明け前の静かな一時、恋人となった逸樹と一緒にコーヒーを飲む幸せを手に入れることができたのだった。




おしまい   2012年6月