「おいっ・・・新・・しっかりしろよ」
―――?
目を開けた新は身体を覆う熱をはっきりと自覚して、正気に返った。こちらを訝しげに見上げる壱哉の顔を見下ろした瞬間、新の双眸から溢れ出た涙が頬を伝い壱哉の頬に滴り落ちた。
ボタボタと頬に零れ落ちる涙の雫を無意識に拭った壱哉はマジマジと自分の指先を濡らした雫に目を凝らした。
(なんだ・・これは?)
一瞬それがなんだったか思い出せなかった壱哉だったが、やがてゆっくりとその雫の正体に思い至った。
「・・・新・・お前・・泣いているのか?」
「・・・・・え?」
問うと新は驚いたような表情を浮かべた。どうやら自覚がなかったらしい。壱哉に指摘され恐る々新は頬に触れ確かめるように探った。
「・・・・これ、涙?・・・なんで?」
それは新が流した十数年ぶりの涙だった。
「・・・あ」
新の脳裏に一瞬喪失した意識化で見た夢で出会ったもう一人の自分の姿が浮かんだ。
あの少年の手と触れ合った瞬間感じた充足感を新は思い出した。
「・・・俺・・もう泣かないって決めてたのにな・・」
壱哉の前で弱さを晒すことが怖かったから・・だから弱さと訣別したというのに・・
「・・・いいんじゃないか?・・・俺はお前の涙・・嫌いじゃないがな」
――!
言葉と同時に壱哉の温かな指先を頬で感じた新は息をつめた。
そっと涙を拭った壱哉の指先が新の唇に焦らすように触れた。口に含むと塩辛い味が広がり渇いた新の口腔を潤した。
「・・・・新」
声に誘われるように衝動的に身を乗り出した新は、壱哉の唇を奪っていた。口付けが深まるにつれ新は壱哉の鼓動が高鳴るのを感じた。
(・・・黒崎さん・・動揺してる?)
久し振りに感情を発露させた新を抱き寄せたまま壱哉は態勢を入れ替えると、涙を溢れさせたまま腕の中で震える愛しい下僕を見下ろした。
「・・・新、お前が涙を流すのは・・いつだって俺のためなんだな」
悪魔になり涙を流すことのなくなった壱哉の代わりに新は泣いた。時には壱哉が原因のこともあったけれど、やがてその涙が涸れはてた時、壱哉は己を見失いそうになった。しかしまたこうして涙を流す新を見た時、壱哉は心からの安堵を感じたのだ。
「・・・俺はあんたの従魔だからさ」
だから泣けないあんたの代わりに泣くのだと言った新の唇を壱哉はそっと奪った。