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視線をさ迷わせ逡巡しているのが不安ゆえか、躊躇ゆえかはわからなかったが、壱哉には迷いに思えてならなかった。壱哉はかつて誘われるまま秘め事を交わした銀髪の彼との鮮烈な初体験を思い出した。あの時の自分の選択を後悔したことはないが、だからといって新とのことはまた別の話だった。決めるのは新で壱哉はその選択を尊重するつもりだったからだ。
「・・・・俺、黒崎さんとしたい」
――!!
飾らない新の言葉がかえって新鮮だった。壱哉はその言葉に迷いがないかどうかもう一度新の双眸を見つめた。
先ほどの口付けの余韻で潤んだ瞳にあったのは、恥じらいと静かな決意だった。
「・・・・そうか。ベッドに行くか?新」
これまで纏っていた分別を捨て去り、誘惑するように囁きかけながら抱き寄せると新は小さく頷き返した。
「・・・新?」
差し伸べられた壱哉の手を取ったものの、そこまでだった。情けないことに今のキスで腰が抜けてしまい動けそうもなかった。こんなエロいキスをして平然としていた麗人との経験値の差が新には悔しかった。
「・・・まったくしようがないヤツだな・・ほら」
「ひゃっ・・」
言うなりいつかのように新は壱哉に抱き上げられていた。
「・・・軽いな。お前ちゃんと食ってるか?・・・どうした?」
緊張ゆえか黙りこくってしまった新の様子を伺いながら顔を覗き込んだ壱哉の耳に、か細い新の声が届いた。
「・・・・ごめん」
一瞬、なんのことだか分からなかった壱哉だったが、すぐにキス一つで腰砕けになった己のていたらくを新が恥じていることに思い至った。東堂とは違う、余りにも初々しい反応に苦笑せざるを得なかったし、正直前途多難だとも思ったが、実際新が考えているほど壱哉にも余裕があるわけではなく、いわば大人のメンツを守る為のやせ我慢も含まれていたのだが、それを相手に悟られないように振舞うことができるというだけのことだった。
「・・・・謝らなくていい。・・むしろお前の感度が良いことがわかって安心した」
「・・・・・っ」
キス一つでここまで感じてしまう新が、自分の施す愛撫やその先の行為でどこまで痴態を晒してくれるのか俄然興味が出た壱哉が煽るように囁くと、新はこれからの予感に震え絶句してしまったようだった。
「あっ・・・・やだっ・・」
一糸纏わず汗ばみ火照った四肢を投げ出して、ベッドの上で身悶える新の姿を壱哉は満足そうに見下ろした。抵抗こそしなかった新だったが、やはり恥ずかしいのか組み敷かれてからは一度も目を合わせようとすらしなかった。
一年前の看病の時、目にした時と変わらず華奢な身体だった。
ほっそりとした首筋や、鎖骨、そして赤くぷくりと充血した胸の突起に丁寧に唇で愛撫を施すたび、敏感な新の身体が跳ね、壱哉は低く笑った。
一度は奪おうと思い、葛藤の末諦めたその身体を投げ出されることになるとは思わなかった。あの時、唇しか奪えず潔く退散したことに後悔はなかったが、自分らしくない行動ではあった。しかし今こうして腕の中に新がいることを考えれば、それ以上のものを得ることができたのかも知れないとも思えば悪い気はしなかった。
羞恥に震える新を幾度なく忍耐強く宥めながらじっくりと慣らした後、無意識に逃げようとする引き締まった脚を掴み引き寄せると、新が顔を強張らせた。
「・・・やめるか?」
もちろん壱哉の本意ではなかったが、新の方は意向を伺う壱哉の余裕が勘に触ったらしく悔しそうに唇を噛み締めた。
「・・・黒崎さんはっ・・したくないのか?」
心外だった壱哉は新の手を掴むと、己の昂ぶりへと導いた。
「・・・・あっ・・うん」
熱さに臆しながらも頬を上気させた新は視線を外さないまま頷いた。
「・・・責任取る気になったか?」
追いつめるように視線を外さずに覗きこむと、頬を朱に染めたまま新はしっかりと頷き返した。
「んんっ・・・あっ」
大きく開かされた脚の間に身を置いた壱哉に抱き寄せられ、口付けを交わしながら身をくねらせる新と、その両手をシーツに縫いとめ汗ばんだ肌の火照りを追い求めるように幾度なく突き上げる壱哉。
「・・・・凄っ・・」
余りの激しさに泣きの入る新を腕に込めたまま、壱哉は言い訳した。
「すまん、新・・・っ・・俺も久々だからな・・歯止めがききそうにない」
『久々』という言葉が新の心をほんの少しだけ軽くしたのか、その口元に笑みが浮かんだ。
「そっか・・んっ・ならしかたねーか・・ああっ」
壱哉相手に軽口を叩く余裕もなくなった新は激情に消失しそうな意識を必死に繋ぎとめた。
「あっあっあっ・・・黒崎さ・・ん」
欲望を成就させるべくより深く新を抱き寄せた壱哉の背にしっかりとしがみ付きながら新は解き放たれた全ての熱を受けとめた。
身体をずらした壱哉は求めるように脱力したままの新の華奢な身体を抱きしめた。
「・・・・大丈夫か?」
欲望に濡れた壱哉の声が耳朶をくすぐり、達したばかりの新の肌がゾワリと粟立った。
「・・・・うん、平気」
疲労感からくる眠気になんとか抗いながら新は壱哉にそっと囁いた。
「ありがと・・黒崎さん」
これまで知っていたはずの仮面が剥がれ、雄の顔をした壱哉に組み敷かれてその全てを受けとめてしまった気恥ずかしさと充足感を感じながら目を閉じた新は、抗うことのできない深く穏やかな眠りの淵に落ちていった。
「・・・お休み、新」
幼さの残る新の寝顔を愛しげに見つめながら、何度も名を呼んでくれた柔らかな唇にそっと口付けた壱哉もまた心地良い眠りに身を委ねたのだった。
