おかしな話でこちらから無理矢理押しきり関係を持つならばともかく、健全オーラが全開の少年から迫られるとこうも困るものだということを壱哉は初めて知ったのだった。



「・・・・・っ。仮にだ・・俺が男が抱けるとしてもお前みたいな子供は好みじゃないさ」



東堂を思い浮べながら吐き捨てるようにそう言うと、新はグッと言葉に詰った。



「・・・・お前は男が好きなわけじゃないんだろう?・・一時の気の迷いで俺に抱かれてもいつかきっと後悔する時がくるさ」



なんとか諦めさせたくて壱哉は強い口調で断じた。



新をターゲットとして選んだ当初、慰みものにしようと考えていた壱哉だったが、新と会い言葉を交わすうち少年の抱えた寂しさに気付いたら共感していた。 15で親に捨てられてしまった新と家族の情に恵まれなかった自分の生立ちが自然に重なったのだ。だから新が自分に何を求めているのか手に取るようにわかった。そんな新に壱哉が求めたのはもっと熱い刹那的な情欲であり、友情ではなかったから壱哉は身を引く決意をしたのだった。



「・・・なんでそんなこと言うんだよっ・・俺は後悔したっていいっ」



新の言い分は最もだった。壱哉自身、後悔を厭い恋を諦めたことなどこれまでなかったが、そのただ一度の例外が新だった。だからこそ自分の決断を無駄にしたくなかったのだが、新自身がその決意を揺るがそうとは皮肉としかいいようがなかった。



「・・・他の誰かが欲しいわけじゃなくて、俺は黒崎さんが欲しいんだっ」



人生初の告白に新の頬はさらに上気し、緊張で気分が悪くてしかたなかったが、部屋で悶々としていたのを吹っ切ってここまで足を運んだのに、今更後には引けなかった。



――――!!!



「・・・・新」



黒めがちな大きな瞳の少年に真っ直ぐに見つめられ告白された壱哉はもはや言葉もなかった。



押し黙ってしまった壱哉を不安そうに見つめる新の脳裏に過るのは先ほど吉岡の影から垣間見た、身を乗り出し壱哉の唇を奪った男の姿だった。嫌がるでもなくされるがままになっていた壱哉の姿を思い起こすたび、胃がムカムカとした。



『・・・・・っ。仮にだ・・俺が男が抱けるとしてもお前みたいな子供は好みじゃないさ』



仮にと言っていたけれど、恐らく壱哉が同性を恋愛対象にできる男だということは間違い無かった。そして自分のような子供が好みではないのだということも・・・



壱哉とあんなに濃厚な口付けを交わしたくせに、その名残さえ綺麗さっぱり消して、悠然とした面持ちで吉岡に目礼して去って行ったあの麗人とすれ違いざま、ビシッと決まったスーツの襟に煌く記章を見た時の敗北感を新は思い出していた。



壱哉と肩を並べることができる男だということが何よりも新の焦燥を募らせていた。



(黒崎さんの言うとおりだ。あの人は俺なんかと全然違うっ・・)



忘れ去っていた劣等感が新を包み込み、厳しい現実を突き付け打ちのめした。



「・・っ・・・うっ・・・」



ソファに腰掛けたまま小さな身を震わせ打ちひしがれる新の姿を目にした壱哉の双眸に憐憫の情が浮かんだ。そして、後腐れなく楽しめそうで面倒な手間をかけずともベッドに確実に連れこめる奔放そうな東堂ではなく、この取るに足りない少年こそが自分の心を占めている事実が壱哉を呆然とさせていた。



「・・・新、泣くな」



身を乗り出した壱哉は、涙にくれる新の頭を引き寄せ、柔らかな前髪を払いそっと慰めるように口付けた。


温かな壱哉の唇が額に触れた瞬間、新の肩がピクリッと震えた。



「・・・黒崎・・さん?」



頬を上気させ、目尻を濡らしながら微かな期待を込めた上目遣いの新を覗きこみながら壱哉は溜息をついた。重い腰をあげた壱哉は回りこみ新の隣に腰を下ろすと、突然の壱哉の行動に固まる少年の柔らかな唇を奪った。



それは言い訳のしようもないほど純然たる口付けだった。



「・・・・・んっ」



新の顎を掴み舌を差しこむと、新がビクリと身じろいだ。それに構わず壱哉はさらに新の熱く敏感な口腔を遠慮なく舌で探ったが、新はされるがままだった。



チュッ



ぎこちなく応える新との口付けを終えた壱哉は、必死に息を整える新をじっと見つめた。



「・・・・それで?どうだ、俺とのキスの感想は?」



あの日、朦朧とした意識化で交わされたものとは比べものにならない濃厚な口付けに火照る身体を持て余しながら、新はやっとのことで頷いた。



「・・・・・うん」



嫌がる素振りのない新に安堵しつつ、壱哉は目で先を促がした。



「・・悪くないと思うぜ。・・・黒崎さん、キス上手だよな」



恥じらいながらも少し生意気な口調で言う新が可愛くてならなかった。



「そいつはどうも。・・・で?どうする?・・まだ続けられそうか?」



キスができたからといって、その先に進めるかは新次第だった。壱哉自身新の肌に触れてみたいという欲求を感じてはいたが、一度は見逃した相手だけに今後も無理強いする気は起きなかった。