!この作品は一部15禁の記事を含みます。


PC版『俺の下であがけ』の「手ぶらでの出立」エンドからの展開を妄想した二次作品です。一億達成できたけど・・愛する新君の笑顔のため、あえて「手ぶらで出立」エンドを迎えた時の葛藤を思い浮べながら作ってみました。


未練を残しながらターゲットの清水新を解放して東京に戻った黒崎壱哉と突然人生から去った黒崎壱哉との再会を願う清水新のお話です。※尚、作中に登場する『東堂亘』はただの当て馬君でゲームには登場しませんのでご了承ください。



新に惹かれながらも、奪うことを諦め未練を残しながらあの街を去った壱哉は、東京に戻り元の生活に戻っていたが、時が経つと共にあの街で過ごした日々、とりわけ鮮烈な印象を残した清水新のことを折りに触れ思い出す日々を送っていた。



「あの街にあなたはなにを残してきたのですか、壱哉様」



そんな壱哉を目にする度、一人気を揉む吉岡の姿があった。





一方新は、薄ぐらい部屋の中で一枚の名刺を手に、追憶に耽っていた。

脳裏に過るのは突然この街と、自分の前から急にいなくなってしまった黒崎壱哉の姿だった。



後日、借金が帳消しになったことと今後、黒崎個人が自分に関わる事は金輪際ないと秘書から連絡があり、腑に落ちないまま完全に縁が切れてしまったことが、新には無性に悔しかった。



(・・・礼くらい言わせろよ・・・)



破損した愛車の修理代を働いて返せばいいと言ってくれた壱哉の言葉を思い出す度、一緒に公園で自作の弁当を食べた時に交わしたたわいない会話を思い出す度、新は切なさが込み上げてくるのが自分でもわかった。



「・・・さよならも言えなかったなんてひでぇよ・・黒崎さん」



壱哉にとってそれだけの取るに足りない存在でしかなかったことがいたたまれなかった。



とはいえそれと同時に多額の借金から解放されたのであるから、もっと安堵を感じてもよいはずだった。



今の新の人生はまさに順風満帆だった。難関を突破して、この春から晴れて憧れの大学生活が始まるし、精力的にバイトをこなし懸念していた準備金も用意できた。さらに西條グループ傘下の財団から奨学金を受ける事もできる運びになった時は本当に驚いたものだった。



夢に向かって着実に準備してきた第一歩を踏み出せたのだから、東京での暮らしを始めとする新しい生活には不安より期待の方が多いくらいだったし、臆す気持ちもなかった。



・・・それなのに



「・・・・黒崎さん・・なんで急にいなくなるんだよ」



受験に合格しても喜んでくれる家族はなく、新は今も一人だった。



無性に寂しくてたまらなかった。そんな新の脳裏に過るのは風邪で伏せっていた時のことだった。



「・・・あの時確かに・・俺の傍にいて、俺の手を握ってくれたのは・・・あの人だった」



新はそっと自らの唇に触れた。熱に浮かされ渇きに苦しんでいた新に口移しで水を飲ませてくれたのは、間違いなく黒崎壱哉その人だった。あの時感じた安堵や、冷やりとした心地良い唇の感触を思い出すたび、新の頬は熱くなった。



彼に奪われたあの口付けが初めてだったけれど、不思議なほど嫌悪は感じなかった。むしろ時が経つほど甘く切ない痛みを新にもたらした。



「・・・黒崎さん・・・俺、たぶん・・・あんたのこと・・」



こんな気持ちを誰かに抱いたのは初めてだった。出会いはむしろ最悪で、大嫌いな金持ちのしかも男に対してこんな甘酸っぱい想いを抱く事になるなんて思ってもみなかった。



新はもう一度手の中の名刺を睨みつけた。


壱哉が自分を残して去ったと知った時、腹立ち紛れに破り捨てようと思いながらも、なにかが躊躇わせてできなかった、絆と呼べるような熱いものですらないけれど、他に手段のない新にとって唯一残された壱哉への道標といってもよい紙片だった。



――吉岡啓一郎



それはあの時、黒崎の元に新を連れて行った秘書が寄越した名刺だった。壱哉と公私を共にするまさに腹心ともいうべき存在だった。



(・・・俺、もう一度黒崎さんに会いたいっ・・・)



「・・・・ダメ元で連絡入れてみっかな・・」



ゆっくりと身を起こした新の目には決意の光りが宿っていた。