この作品はゲーム中に登場する『悪夢イベント』をイメージしたものです。



黒崎壱哉、清水新、山口幸雄の3人が登場します。・・あ、補足ですが・・悪夢中、カプはありません。目覚めた後、黒崎壱哉×清水新になりますのでご了承ください。結局『きのこドラマCD』は聞き損ねたし・・悪夢イベントも全部回収できなかったのですが・・『きのこ』で作品作りたいな~って思い、安直に『きのこ』の話になっちゃいました。





「それにしても、こんなにたくさんのきのこ・・一体どうしたんだ?」



一番の気がかりが解消してなんとか気を取り直した俺は、ふと思いついたことを尋ねた。



「すごいだろう?・・・これ採るの大変だったんだよ~?・・ああ、中腰だったせいかな、まだ腰が痛い・・汗



「ホントだぜ。・・きのこって美味しいけどさ・・こんな量あったら食べきれっかな~・・そだ、もし余ったら煮て常備菜にでもすっか音譜



いまいち要領を得ない二人に焦れながら、問い詰めた俺に山口がニッコリ笑顔で答えをくれた。



「それがさ~不思議なんだけどねぇ・・樋口くんの家にたぬきが出てね・・その置き土産なんだよ」



「は?・・・・・たぬき?」



「そうそう!俺、話には聞いたことあっけどさ~部屋ん中にきのこ生えてるとこ初めて見たぜ」



「しかも!部屋の壁とか柱とかそこら中びっしりだよ?樋口くんから電話もらってさ、人手が必要みたいだったから清水くんも誘って一緒にきのこ狩りをしたってわけ」



「大変だったぜ~・・・俺、も腰痛てぇ・・あ~でも俺、きのこ好きだし・・月末とか冷蔵庫空んなった時とか便利かもな?家庭菜園みたいでさぁ・・キラキラ



少し羨ましそうに大きな瞳をキラキラさせる新が俺は不憫でならなかった。



「・・・それ、なにか違うだろ」



心当たりがありすぎて嫌な汗をかきながらボソリと突っ込んだ俺の言葉は黙殺された。



「それにしても、やっぱたぬきって怖え~よ・・俺、前に弁当盗まれたことあってさあ・・あれは一生の不覚だったぜ・・盗られたつっても動物相手に被害届だせるはずもね~し・・周りからはあの子可哀想ねって目で見られるわ・・恥ずかしいわでホント散々だったもんなあしょぼん



「・・・・うっ・・ごほっ・・・ああ、煙いな・・換気扇まわっとらんのじゃないか?」



気まずさにうろたえる俺を胡乱な眼差しでチラリと新が睨みつけた。



「・・・・ここ、寝室だぜ?換気扇なんてあるわけないだろ?」



(・・・その寝室できのこ焼いてるのはどこのどいつだ!!!)

※くどいようですが危険なので絶対マネしないでくださいね



・・・と、言う言葉を俺はなんとか理性を総動員して飲みこんだのだった。







「それは大変だったねえ・・そうか~清水くんもかあ・・こんな街中でもたぬきって出るんだねえ・・」



相変わらずおっとりとした調子でたぬき談義を続ける山口の柔らかな声に耳を傾けながら、俺は内心ほくそえんだ。



(・・・出るのはたぬきだけじゃないんだがな)



「そうそう、ちょっと前のことだけど・・一也を動物園に連れていってあげたんだよ。アライグマのオリの前でほ~らラスカルだよ~って一也に言ったら、それ・・たぬきだったんだよねえ・・・一也にもお父さんラスカルじゃないよ~って笑われちゃって・・ははは、赤っ恥かいちゃってホント参ったよ・・僕さ、たぬきとアライグマって見分けつかないんだよなあ・・・清水くん、君見分けつく?」



「え~~~っとあせる



山口の天然ぶりに流石の新も絶句したようだ。



もうもうと煙のたつ中、たぬきの置き土産のきのこを食べながらたぬき談義をする『黒崎壱哉被害者の会』の面々・・



「・・・それにしてもすごい煙だな・・ゴホッ」



いつのまにか冗談ですまされないほどの煙が寝室に充満していた。



「あ、そうだそうだ忘れるところだった。ね、清水くん、あれ(・・)もういいんじゃないかな?」



手をポンッと叩いた山口が新に声をかけた。



「・・・そっすね~どれどれできてるかな~?」



そう言って新が向かった先には先ほどまで絶対に存在していなかったはずの大きな燻製器があった。



「・・・おい、なんだそれはッいつのまにそんなものまで・・」



大きな燻製器からもくもくと煙が立ち昇っていた。どうやら寝室を覆う煙の正体はこれだったらしい。軋んだ音をたて開いた扉の中にはずらりときのこが吊るされていた。タコ糸で縛られ煙に燻されたきのこの異様さに俺は絶句した。キッチンバサミで幹を断ち手際良く糸を外したきのこを次々にホットプレートに放りこむ新を見ているうちに気付いたら箸が止まっていた。



「さあさあ!まだまだたくさんあるから!どんどん食べてッ黒崎くんッ」



思わず呆けていた俺だったが、プレートの空いた隙間にどさどさと物凄い勢いできのこを乗せる山口の鬼気迫る様子に気圧されていると、今度は満面の笑みを浮かべた新が目にも止まらぬ早さで取り分けた山盛りのきのこの乗った紙皿を俺の手に押し付けて言った。



「そうだぜ!俺、特製『びっくり(・・・・)キノコのお仕置きスペシャル新風』だぜ!遠慮せず食えよ」



「きのこをお仕置きって・・・お前なガーン



なんとなく居たたまれない気持ちになるのは何故だろう・・?



「・・・しかもびっくりって・・・なんだ?」



「いいからいいから」



「そ!細かいことは気にすんなって」



(・・・・うっ)



「・・・・笑顔が怖いぞお前ら・・」



納得できずに首を傾げつつひとりごちながら、威圧され半ば強引に俺はしぶしぶきのこを口に運んだ。後から後からプレートに継ぎ足されるきのこと、焼けたはしから皿に盛られるきのこ・・どこを見てもきのこだらけだ。目の端にはまだタコ糸に縛られたまま放り出されたきのこが転がっているのが見えた。余所見をしたまま一際大きなきのこを口に放りこんだのがたたった。デカい分生焼けだったらしく、弾力のあるきのこを俺は咄嗟に飲み込むことができなかった。



『俺、特製「びっくりきのこのお仕置きスペシャル」!だぜ』



同時に得意げな新の声が耳鳴りと共に頭に響き渡った。



(びっくりきのこってそういう意味かよ・・)



『は~ははははっ・・俺のやったきのこの味はどうだ~?黒崎壱哉!』



脳裏に高笑いするネピリムの姿が浮かび、やっと俺は俺が忘れていたことを思い出した。