私が幼いころ、祖父の住まいに泊りに行くと、一番嬉しかったのは、祖父と入るお風呂でした。お風呂は母屋から渡り廊下で結ばれていた離れにあり、今ではもう見ることもない五右衛門風呂でした。
薪を燃やして、風呂釜を熱して、お湯を沸かします。お風呂を入る時は、風呂釜部分が熱いので、祖父は、底板を沈めて、私を抱きかかえるようにして、入れてくれました。祖父との思い出は、五右衛門風呂の思い出です。あれから、25年の月日が流れ、私と両親は一緒に住むための住まいを建てました。そこで、息子たちが生まれ、父は、かつての祖父のように、退院したその日から、息子たちをお風呂に入れてくれました。
私の家族と両親で計6人が入るお風呂を考えた時、まず、入った時の快適さと安全性を考えました。浴槽は五右衛門風呂のように膝を抱えるような狭い浴槽でなく、足を延ばせる広さが必要です。浴槽の横には、いったん腰を下ろして、浴槽に入ることができるように、ベンチをつけました。段差をなくし、床は濡れても滑らないタイルを選びました。適当な所に手摺をつけることで、転倒事故を防ぐ工夫もしました。快適さと言うと、湯の温度が大きく関わってきます。6人家族にもなると、最初のものが入って終わるまで、4~5時間かかります。そこで、工務店さんが勧めてくれたのが、魔法瓶浴槽でした。魔法瓶浴槽は二重断熱構造で、6時間後の湯温の低下は2度あまりです。これならば、帰宅が遅くなっても、湯は冷えにくくなります。
そういえば、五右衛門風呂の頃は、途中で何度も焚口に薪を入れ、追い焚きしなければなりませんでした。便利な世の中になりました。
しかし、東日本大震災の避難所で、五右衛門風呂が復権したとか、
何だか、嬉しい気がしました。