【時代の波に翻弄された「メガゾーン23」】
本作の「総評」は「ロボットアニメ(メカ)を装ったエロアニメ(美少女)。爆発的に売れたのもエロが目的」。
それに到ってしまった一番の原因は、皮肉にも本作の「あらまし」たる「OVA」という発表媒体その物の問題だと書きました。最後にその詳細を書いていこうと思います。
●「限定劇場公開」という不幸
まず、本作にとってのOVA故の不幸は「劇場公開を限定したこと」です。
当時はあまり気にしていませんでしたが、後年あまりに本作が劇場公開された事を知らない人が多かったため調べてみた所、日本全国での本作の公開地は「東京・大阪・名古屋・北海道」主要四都市、2週間期間限定の「単館上映」でした。
後に地方都市でも「福岡・宇都宮」等で上映されていますが、これまた期間限定の「単館上映」となっています(福島はイベント上映)。これは「OVAを買わせる」方向に持って行こうと「あえて露出を抑えた」ため。
様々な動画公開手法が確立されている今でこそ、私達は「ソフト購入は思い出にこそ金を払う」事実を知っています。だからこそ、強制視聴させる「地上波テレビ」の呪縛から未だ逃れられない事も。
「事前告知で期待感を煽り、新作を見に行かせる」というスタイルは、口コミによる話題性の発展に頼らなくてはなりません。そうなると、ある程度の「長期イベント」でしか通用しない手法です。
ビデオソフト創世記とも言えるこの時代に、博打とも言えるこの手法でなまじ小成功を納めてしまった事が、本作の不運の始まりでした。
●「狭小なOVA視聴層」という不幸
次に本作にとってのOVA故の不幸は「視聴機会の狭さ」です。
本作は「OVA」の「創初期」の作品故に、商品として取扱店も少なく、価格も高額で、気軽に手が出せる代物ではありませんでした。
高額なOVA初期に本作の叩き出した記録「初回出荷約7,000、計約24,000」という数字は確かに立派です。ですが(スゴく乱暴な物言いをすると)テレビ番組の視聴率に換算した場合、当時総人口1億とすると24,000人はたったの0.024%。
当時のビデオレンタルは基本アングラな物でしたから、見るには死ぬ気で購入するしか無く、貸し借り・ダビング・上映会等で普及活動を行ったとしても、せいぜいその10倍の0.24%。
劇場公開時の総視聴数もせいぜい20,000人と言った所でしょう。これで0.02%。アニメブックも沢山出版されていたけど、OVAを売りたい故に、併せて聞くべきドラマ編LPはついに発売されなかったから、購入者は約30,000、0.03%ってところ。
…うん、全部合わせても0.314%。当時の某特撮リメイクロボアニメの最低視聴率0.8%の半分にすら到底及びません。影響度合の弱さは明白です。
当時の某特撮リメイクロボアニメに登場するロボプラモパッケ。
●「視聴タイミング」という失敗
次に本作にとってのOVA故の不幸は「視聴タイミングの遅さ(無さ)」です。
世の中の映像作品は、大別して二つに別けられます。一つは、今の時代に今の人たちに向けて作られた物(大概はこちら)。もう一つは、何時の世でも見れるように作られた物(歴史物や教育物、記録映像等)。
特に、本作は製作当時の「1985年の東京が舞台」。ですが、ほとんどの人はビデオレンタルが普及し、数あるラインナップの中の1本として本作を「数年後に見た」のが大半だったのではないでしょうか?
ビデオレンタルが一般に普及したのは1990年頃。PPTシステムにより店側と製作側のギブ&テイクが成立し、利益が還元されるようになってから。この時点で既に5年の歳月が流れています。
小学校の低学年/高学年、中学/高校の区切りが各3年。ここでは精神面での成長により好みが完全に切り替り、どんなブームも3年目に一つ目の壁が立ちはだかります
。
本作公開から5年も違えば、そりゃ時代も世相も一変します。それほどに、人心とは移ろいやすい物なのです…特に飽きやすい子供(学生)にとっては。
続々と新作がリリースされる中、本作も過去作品ラインナップの一つに成り下がる。「いつでも見れる」は「今見なくても良い」に辿り付き、更に視聴タイミングが遅れるという悪循環。
故に「公開当時に見た」「数年後に見た」では、その評価は大きく別れるのはある意味当然の事なのです。
■「協力会社(スポンサー)不在」という不幸
そして本作にとっての最大の不幸は「協力会社(スポンサー)不在」という点です。これは、本作の起源に関わるものでもあります。
もともと、本作は1983年「モスピーダ」の続編として企画されたという経緯があります。
ところが、ここで不可解な動きが生じます。モスピーダで華々しく男児玩具デビューを果たしたはずの「学研」が、早々に撤退を決め込んでしまったのです。
これは世間の常識からするとかなり異常です。もともと「学研」は知育玩具専門。設備投資がそれなりに必要な男子向けキャラクター玩具に参戦したとなれば、普通なら3ヶ年か5ヵ年計画でその進退を決定するはずですから。
そもそも、男児玩具デビュー時のフットワークの軽さからして「学研」は異常でした。その年前半に倒産した「クローバー」から生産ラインを調達し、その年後半の「モスピーダ」に間に合わせたのだとしても、です。
こう考えたのにはもちろん理由があります。「クローバー」最後期の傑作玩具に「DXアイアン・ギア」という物があるのですが、これは今までの「クローバー」の持つ特徴とは全く異質の出来だったからです。
クローバー「変型デラックス アイアン・ギア」
その設計の癖やプラ材質・シールの仕様は、あの「バルキリー・ショック」を生み出した玩具メーカー「タカトクトイス」に近い。
そして、その特徴は学研「モスピーダ」玩具シリーズにも現れているのです。
学研「モスピーダ ライドアーマー」
この年、「タカトクトイス」は空前の「バルキリー・ショック」(ブーム)を受け、大幅にラインを増やしていました。ひょっとしたらその流れで「学研」に生産ラインを貸し出していたのかもしれません。
ですが、このライン増設が祟り、二回目の「バルキリー・ショック」を生み出せなかった「タカトクトイス」は、翌年の1984年に倒産してしまいます。
その「タカトクトイス」がスポンサーをしていた「超時空」シリーズ第四作目を企画中の「マクロス」スタッフが、「モスピーダ」続編企画に合流し本作として結実したのです。
幅広い商品展開が可能な現在ならともかく、当時の「キャラクターコンテンツ」として「玩具・模型」という主柱が無い事は致命的でした。
これが無ければ、次作までのファンの興味を引き続ぐ事も出来ず、発展性も期待できないからです。
日東科学製「1/12朝霧陽子 & 1/20ステード」
それでも、あの「幻夢戦記レダ」のプラモを出していた「日東科学教材」から、完全変形ガーランドのプラモデルが出るとの噂が流れた事もありました。が、この年に火事を出し倒産してしまいます。
更に、この年から始まった「ワンダーフェスティバル」で知名度を得た「ガレージキット」の流れにも、ラークやツクダが便乗します。が、乗りきれませんでした。ファンのニーズに応えきれる規模とノウハウが蓄積されていなかったためです。
このように「主スポンサーがつかなかった事」更には「関連玩具メーカーが軒並爆散した事」による負のスパイラルが、本作最大の不幸と言っても過言では無いように思います。
せめて、当初の予定通り1984年に学研が本作のスポンサーになってくれてたらなあ…やはり「メガゾーン23」は、テレビに向いた企画だったのです。
1985年頃の玩具&模型に、AOSHIMA製ガーランドを加えた写真。当時こんな風に並べたかったな…
※実はこの当時、「世間の常識」を覆すとある「ブーム」の火種はとっくに燻っていました。玩具業界はおろか、あらゆるメディアをも揺るがせたこの「ブーム」ですが、あまりにも根幹的過ぎるため、ここでは割愛します。
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結局、本作は「1980年代当時の若者の"空気"を、最も鮮烈にフィルムに焼き付けた作品」とはなった物の、「リアルロボ」は最後まで「ブーム」にはなれませんでした。
そして「OVA」という発表媒体その物の潤落により、本作は正当な評価も得られず埋没してしまいます。
同期の「Zガンダム」「トランスフォーマー」が、リデザイン・ゲーム化・映画化等新世代から再評価される傍ら、「メガゾーン23」は「劇中同様、厳しい現実と時代に飲み込まれた悲劇の作品」となってしまったのです。
ですが、初公開から30年以上の時を経て「ガレージキット」の流れを受けた「大人向けホビー」に、ようやく本作も取り上げられるようになってきました。
そしてついに、出来の良い玩具・模型で「ギミック」を「証明」したいという心の渇望を満たす逸品が発売されました。それがこの、アルカディア製「1/24 完全変形ガーランド」です。
形状・質感・ギミック・頑強さ、そのどれをとっても超一級品の本玩具。発売してくれたアルカディアには感謝の念しかありません。これを入手した時の酒の何と旨かった事でしょうか…。
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◼️「メガゾーン23」は「SSSS.GRIDMAN」の夢を見るか?
2018年秋アニメの中で抜群の話題性を誇っていた特撮「電光超人グリッドマン」の続編アニメ。
放映前から楽しみにしておりまして、一話から最後までスゴく面白く見させてもらいました。ありがとうございました(アノシラスちゃんが好きです)。
今思えば「メガゾーン23」鑑賞前の「見たいものを見せてくれるかも」という期待感が一番近い感覚でした。そして、実際見てみたら、その期待を遥かに上回る出来でビックリ。そしてメガゾーンと共通点の多いことに二度ビックリ。
・音楽は同じ「鷺巣 詩郎」
・身近な場所「東京」が舞台
・「過多過ぎるネタとサービス」が感じさせる80年代ゼネプロ感
・「合体/変形」へのリスペクト
・比較/比率から逃げない「特撮的構図」
・「現在」を生きてる魅力的なキャラ達
・最先端の「萌え」
・リアルが幻想となる「二重箱庭世界」
絵的に似ているというのでは無く、スタッフの信念に迷いが無い所とか、時代に対する考え方とかのベクトルが合うというか。きっとこの作品も、現在のどこかの若者に「これは自分たちの作品だ!」と強烈なシンパシーを呼び起こしていると思います。
…そう。実はここ1週間の「メガゾーン23」紹介は、これにかこつけた「SSSS.GRIDMAN」のステルス・マーケティングだったのです!
だから皆で見ようグリッドマン&メガゾーン23!
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P.S.
恐れ多くも、怪奇SF映画解説の第一人者「聖 咲奇」先生のお誘いを受け、毎年夏冬に開催される「ワンダーフェスティバル」にて刊行される「Saquix's TIME☆MACHINE」で、主に80年代のアニメ作品&立体物についてのコラムを寄稿させて頂いています。
来年2月刊行分は、本稿を基に加筆修正を行った物を予定しています。
おしまい。