ソ連崩壊・金融危機・英国EU離脱などを予言し、世界の賢人16人の一人に数えられるフランスの歴史人口・家族人類学者、エマニュエル・トッドの著作。本書はウクライナ戦争開始直後に発行され、将来を予測する目的で書かれたものではないが、グローバリゼーションが進んだ現代では対露制裁は効かず、むしろ欧米がその反動を受けるとの言は、正にその通りとなっている。

 

 

センセーショナルなタイトルだが、倫理的な責任は別として、ソ連崩壊後にNATOの東方拡大はしないとの約束を反故にして旧ソ連圏まで拡大、ロシアの源流となる旧キエフ公国=ウクライナの軍備増強に走った英米に原因があり、戦場がウクライナに限定されているだけで、兵器を供与し、軍隊を訓練する欧米(西洋)と中国を初めとしてロシアを擁護する国々を巻き込んだ世界的な戦争となっているとの評価である。

 

日本人の感覚からするとロシアを擁護する国の多さに驚かされるが、氏の専門である家族人類学による分析が興味深い。①ロシア制裁を科す国、②制裁しないが非難する国、③避難も制裁もしない国、④ロシアを支持する国と言う4分類で世界地図を色分けすると、家族構造における父権性の強度による国の分類と高い確度で一致している。これは家族形態と地政学が密接に関係している事によるものである。

 

これまでにも氏の著書をいくつか紹介しているが、他とは一線を画す歴史人口・家族人類学による緻密な分析と明快な解説は、さすが世界の賢人と唸らされる。