2年目のバースデーにテツオからもらったプレゼントは
婚約指輪ではなかった。
どうみてもファッションリングである。
「誕生日は指輪が欲しいな。あ、給料3か月分でいいよw」
と、数か月前に伝えたはずだった。もちろん「給料3か月」は言葉の綾ではあるが。
後から知ったが、このフレーズはテツオの癇に障ったらしい。
女性の皆さん、発言には気を付けて。
私にとっては婚約指輪の意味だったが、
テツオは指輪にそれくらいかけるのが甲斐性、と言われている気がしたようだ。
話を戻すが、今回もらった指輪は確かに美しかった。
ティ●ニーの18Kのゴールドで、上品な輝きを放っている。後から調べた(←やな女w)ら定価は12万。
婚約指輪でなく、ちょっと派手な結婚指輪というイメージというところだろうか。
私は言いたいことが喉元まで出てきていたが、その場で出てきたセリフは
「あ、ありがとう。すごく綺麗」
だった。ここが私の心の弱さである。不満があったが、まずはもらったものに礼を言わなくては。
だが、それは私の薬指に入らなかった。サイズが間違っているのだ。
私の薬指よりも2サイズほど小さい。小指にしか入らない(笑)
どこまでも決められないテツオ。
私は意を決して、腑に落ちない気持ちを正直に伝えた。
「テツオ、プレゼントありがとう。すごく綺麗だし、本当に高価なものでビックリしてる。
けれど、私は「婚約指輪」が欲しかったの。2年付き合ってきて、今回家族に紹介してもらえるって分かったら、
当然結婚を考えてる相手として紹介してもらえると思ってた。だから今度こそプロポーズされると思ってた。
でもこの指輪は、私から見ると「婚約指輪」でなく高価なファッションリングにしか見えない。どんな気持ちでテツオは私にこれを選んだの?」
テツオは思いつめた顔での私の発言に少し戸惑ったようだったが、帰ってきたのはこんな返答だった。
「まめこ、実はちょっと言わなければならないことがあって。
一緒に住んでいる叔母がガンを患ってるんだ。
来週あたま、ちょうどまめ子のバースデーの午前中にステージがどのあたりかの検査結果が出るんだけど、
今の状況だとまめ子と叔母を同居させるのも考えられないし、
かといって今後の状況が分からない叔母を一人にするわけにもいかなくて。
まめ子のことはすごく好きで大切に想っているし、本当は結婚のことをちゃんと考えたいんだけど、
今の状況ではいつ結婚できるって約束ができないんだ。
でもまめ子は指輪をリクエストしたから、せめてそれに応えたかったんだ。」
テツオの口から出てきたのは叔母の病気の話だった。
こんな話をされたら、私も何も言えない。
そういうことじゃなくて、叔母のことは関係なく
結婚する意志があるか無いかが知りたかった。
まあ、意思があったところでいつできるか分からないと言われれば結果は同じだが。
叔母は他人の介護を必要としない、と聞いたことがあるので
それならプロに任せるという手もある。
女子の考え方かもしれないが、どうせなら甥の幸せな姿を最後に見せてあげる方が叔母孝行じゃないだろうか。
叔母の病気と私との結婚の話を天秤にかけることを妬んでも仕方ないけれど、
ぐうの音も出ない、何も言い返せない自分がいた。
ならば翌日、何のために父親に紹介されるのか。私はどう振舞ったらいいのか。
父親に将来のことを聞かれたら私は正直な気持ちを言っていいのか。
釈然とせず、気持ちもすっきりしないまま夜が更けていった。
何の答えも出ないまま翌日を迎え、私はテツオの父親と対面した。
今お付き合いしてる、まめ子さんです。と紹介される。
お土産はウィスキーが好きな父親ということで、自家製のスモークナッツと
ブランド牛のジャーキー、枝付きのレーズンを用意した。
テツオの父は陽気で破天荒な人だった。高級車で登場し、身に着けるもの、
着ているものも一目で高価なものと分かる。
父親の行きつけという鉄板焼きに連れて行ってもらったが、
私達はそこでシャトーブリアンをご馳走になった。それ以外に食べたものはほとんど覚えていない。
テツオの野菜嫌いは父親譲りらしく、父親も野菜をほとんど残していた。
ずっと離れて暮らしていても、やはり親子は親子なんだな。
その後は地元のスナックを3件ほどハシゴした。
当然だが、終始、会話の中に結婚の文字は出てこず、
父親からも将来のことについては聞かれずだった。
気を付けて帰んなさい。いつでもまた遊びに来なさいね。
テツオの父はそう言って、私達と別れた。
慌ただしい一晩が過ぎ去り、東京に帰る日を迎えた。
この旅行はなんだったのか。
私は帰りの飛行機でテツオに気づかれないように泣いた。
プロポーズもされず、結婚の展望も見えず、
彼の地元を案内され、父親に意味もなく紹介される。
私はいつになるかも分からない、テツオの婚期まで待ったらいいというのか。
好きで好きで仕方ない、ずっとこの人についていこうと思えるのなら問題は無い。
だが私はそんなにいい子ちゃんにはなれなかった。
38歳、子供を産めるか産めないかという選択肢で言えば、もう考えてる余裕などないし
医療の力で何とか出来るのはお金がある人達だけだ。
子供が欲しいか、という話を付き合いはじめにテツオとしたことがあった。
私はできなかったら仕方無いが、チャンスがあるなら子供が欲しいし、
年齢のことを考えるとのんびりしている時間は無い、ともその時に伝えた。
テツオは分かっているはずである。
もう2年も待ったのだ。恋人ごっこは十分ではないだろうか。
私は2016年バースデー前日の、飛行機の中で決心した。
未来が見えないこの人と、終わりにしよう、と。
つづく。
