前々から興味があったSTMのホイールベアリングを手に入れられたので、早速交換してみる(割と長編になってしまった・・・)
グロム用はこれ
Frホイールが2つ、Rrホイールが2つ、スプロケハブが1つ
スプロケハブのベアリングだけサイズが違う
●工具の紹介
今回の作業のためにそろえた道具はこれ
上の赤い箱がベアリングプーラーでベアリングを抜く時に使う物
左がスライドハンマーで、ベアリングプーラーと組み合わせて使用
真ん中の赤い箱がベアリング圧入時に使うドライバー
この3つの工具はストレートの物を購入
長い寸切りボルトはM12のピッチ1.75、長さ285mm
長ナットはM12、長さ50mm、ワッシャは内径12.5X外径26
全部合わせて\16,700
使用頻度を考えると大分割高かも
でも自分の場合、道具ケチると失敗するので割り切って購入
ベアリングプーラーの中身
このセットだけでも使えるけど、スライドハンマーのアタッチメントも付属してて、スライドハンマーと一緒にも使える
プーラーの径はこの入り組み
プーラーは十字の切れ込みが入っていて、プッシュボルトを入れて広げることでベアリング内径を保持する
圧入セットの中身
径はこの入り組み
今回使ったのは、11,12,14のドライバー
圧入時はこんな感じで使う
長ナットをねじねじしていくとベアリングが圧入されていく
アウターとインナーを同時に押せるドライバーを使うのが肝
割と力が必要かつ体勢がきついので、長めのレンチがあると楽
●フロントホイール
ホイールの回り具合を比較したいので、キャリパを外しておく
フロント用のベアリング2つ
内径12 X 外径37
向きは無さそうだけど、アウターに刻印があるので、刻印側が外に向く用に圧入する
サクッとホイールを外してダストシールを外す
ダストシールはマイナスドライバでこじって外す
ダストシール外したらプーラーをセット
ベアリング内径12mmなので12mmのプーラーをセット
先端がツメみたいになっていて12mm以上になっているので、プラハンで叩き込む
上のプッシュボルトの六角を回すと、プーラーの先端が広がってベアリング内径をホールドしてくれる
スライドハンマーにプーラーと接続するアタッチメントを付ける
接続するとこんな感じ
ハンマーをスライドさせるとベアリングが抜けてくる
外れたベアリング
純正は裏側がシール無しタイプ
ブレーキ側からみるとディスタンスカラーはこんな感じで収まってる
ディスタンスカラーの寸法はざっくり内径12.3 x 外径19 x 長さ72
ホイールの中はテーパになってる
ブレーキ側の径が小さい
圧入する部分をきれいにしたらベアリングを圧入する
順番があるか分からないけど、ブレーキの反対側から圧入
最初に圧入するほうは特になにも考えず、突き当てまで圧入
ブレーキ側に34mm、圧入側に36mmのドライバーを使った
圧入完了
ディスタンスカラーを忘れず入れて、反対側も圧入
ディスタンスカラーはサビ防止にうっすら万能グリスを塗っとく
こっちはトルク管理して圧入
長ボルトのねじ面と長ナットの座面にスレッドコンパウンドを塗る
締め付けトルクは今回40Nmにしてみた
締め付けトルクの考察は長いので最後に記載
この状態で指で普通にインナーが回るくらい
ディスタンスカラー経由で反対側のベアリングインナーも回る
圧入完了したらダストシールを組み付けて完了
部番は91252-KGH-902
同じ部番だけど袋の見た目が違かった
ダストシールの溝に万能グリスを塗り塗りして組付け
組付けが割と固いので、プラハンで叩いて押し込んだ
フロント完了
純正との比較動画は後ろのほうにリンク有
●リアホイール
まずはスプロケハブのベアリングを外す
ダストシールを外して
ここは結構グリスが詰まってた
内径を12mmにするためのカラーがいるので、外してからベアリングを外す
スプロケハブはハブダンパーにキュッと刺さっているだけなので、スライドハンマーを使いにくい
なのでプーラーに付属の工具で外す
こんな感じにセットして、プーラーをレンチで押さえながら上の六角穴付きボルトを回すと、ベアリングが抜けてくる
途中でボルトが突き当たってしまったので、六角穴付きボルトの下のカラーを入れ替えて高さ調整
抜けるとこんな感じ
先端が開いてベアリング内径を保持してる
ここのベアリングはプーラーがピタピタ過ぎて、抜けなくなってしまった
万力で挟んだりしてなんとか取れた
スプロケハブのベアリングは両面シールが付いてた
ホイールに付いているベアリングはフロントと同じ要領で外す
使うプーラーはフロントと同じ
スプロケ側
ブレーキ側
リアのディスタンスカラーはなんか表面に付いてた
寸法はざっくり内径12.1 x 外径19 x 長さ91
リアホイールも中がテーパになってた
リアのベアリングは3つ
ホイールに付く2つはフロントと同じ
1個だけ大きいのがスプロケハブ用
まずはホイールのベアリングを圧入
圧入面をきれいにして、フロントと同じようにベアリング圧入
こっちのトルク管理は41Nmにした
ハブとの接続部分のO-ringもついでに交換しておく
部番は42653-001-004
O-ringかと思ったらD断面だった
シリコングリス塗って組付け
スプロケハブはこんな感じで突き当たるまで圧入
最初ホイールに組み付けてやってみたけど、突き当てまでいかなかったので、このやり方にしてみた
38mmのドライバー使うとこんな感じ
裏から見て突き当たっていること確認
ハブダンパーにはうっすらシリコングリス塗っておいた
カラーを入れてホイールにハブを組み付け
カラーがガタガタしないことを確認
ダストシールを組み付け
部番はスプロケ側が91251-KGH-902
ブレーキ側が90753-051-003
スプロケ側のダストシールは裏側にグリスモリモリだったので同じように万能グリス盛っておく
ブレーキ側のダストシールは最初からグリスが入ってた
ので、こっちはそのまま組付け
リア側完了
●純正との比較
比較した動画は↓
フロントの比較のみ
キャリパーとダストシールを外して比較
動画で比較している純正ベアリングは、突き当てまで圧入、40Nm圧入の2種類だけど、他にも2種類お試ししてみた
・純正そのまま
・50Nmで圧入、アクスルを40Nmで締め付け
結果は大差なかった
純正がどの手法でも大体1分くらいに対して、STM変更後は6分くらい回るし、ペーパーウェスを乗せただけで回る
すごい
乗って感じたのは、まず出だしがスムーズ
そんなにアクセル当てなくてもすいーっと発進できる
どちらかというと低速域で違いがよく感じられる気がした
止まる直前とか、いつもの感じでブレーキすると中々止まらない
●おまけ ベアリング組付け時トルクの考察
長いのと、合っているか分からないのでおまけとして記載
まずベアリング圧入方法について
ホイールベアリングの圧入方法を調べると、アクスルを規定トルクで締め付けた状態で、ベアリングのインナーとアウターが整列することが大切と書いてある
圧入時、ベアリングのインナーがディスタンスカラーに突き当たるまでで止めると↓の状態になる
この時点ではベアリングのインナーとアウターは理想的な状態
ここからアクスルナットを締めると、アクスルシャフトとアクスルナットの間の部品が、軸力によって微小に縮む
ディスタンスカラーに注目すると↓の状態になる
アウターとインナーの位置がずれるので、理想的なベアリングの状態では無くなる
ちなみに、たまに見かける、適当なソケット工具でアウターだけを突き当たるまで叩き込む方法だと、上図の逆で、アクスル締め付け状態でもインナーが外に出っ張った状態になると思われる
(ディスタンスカラーが必ずインナーに接する設定になっているはずなので、ディスタンスカラー長さ>ホイールのベアリング座面間距離 の設定になっているはず、つまり両方のアウターが座面に接するとインナーだけが外に出っ張る)
上記のようにならないために、
圧入時にインナーとアウターを同時に押せる工具で、アクスルシャフト締め付けと同じ状態になるように、トルクを掛けて圧入する
こうすると、アクスル締め付けしていない状態だとディスタンスカラーが縮んでいないので、ベアリングが整列していない状態になる
ここからアクスルナットを締め付けるとディスタンスカラーが縮むので、ベアリングが整列状態になる
というわけで、叩き込む方法ではなく、軸力(トルク)を管理して圧入する方法を採用した
(本当はプレス機で荷重を管理して圧入するのが理想的)
ここからどのくらいトルクを掛けるかの考察
アクスルのねじ部と、治具として使った寸切ボルト・長ナットは色々寸法が異なる
その内軸力に関連するのが、ピッチと座面径
アクスルはM12のピッチ1.25、座面径は23.5mm
治具はM12のピッチ1.75、座面径は18mm
ここの寸法が異なると、同じトルクを掛けても軸力が変わり、ディスタンスカラーの縮み量が変わる可能性がある
なのでベアリング圧入時はアクスル締め付け時と異なるトルクにするべきかと思い、真面目に計算してみた
計算式、その他情報は主に東日のHPの技術資料を参照
軸力の計算で一番効くのが、座面とねじ面の摩擦係数
ここもアクスルと治具では表面処理が違うので異なるが、スレッドコンパウンドを塗布して同等になると仮定する(仮で0.12にした)
アクスルは、前回スレッドコンパウンドを塗布して締め付け済
マーキング位置を合わせる方法で締め付けてるが、この時の締め付けトルクが何Nmかをまず確認
フロントは40Nmでマーキング位置が合うことが分かったので、この時の軸力を計算で求めると約19,000N
この時のディスタンスカラーの縮み量を計算してみると約0.04mm
ベアリングが両方に均等に押されるとすると片側0.02mm
思ったより小さい・・・
次に治具を40Nmで締め付けた時にどれくらいの軸力になるか確認してみると、約20,400N
軸力の差異は1,400N
この1,400Nでディスタンスカラーの縮み量がどれくらい変わるかというと、約0.003mm、片側で0.0015mm
無視できるレベルか・・・
純正ベアリングで圧入位置を色々お試ししても変わらなかった結果からすると、納得の計算結果ではある
ってことで、深く考えず40Nmで圧入しといた
リアも同じ要領で確認すると41Nmになったので、41Nmで圧入した
ディスタンスカラーの縮み量に影響するのが、寸法とヤング率
同じ寸法で材質が鉄からアルミになると、ヤング率が205GPaから70GPa程度になるので、縮み量が約3倍になる
グロムは鉄のディスタンスカラーでホイール幅狭いのでそんなに影響ないけど、ディスタンスカラーがアルミでホイール幅広い場合は影響が大きいのかも
新しい整備をすると新しいことが分かって面白い