『悪魔の喫茶店』の続きというか、ツカちゃんサイドのお話。
ツカちゃんが喫茶店にやって来るまで。
相変わらずゆるゆるふわふわです。序盤は殺伐してるけど平和な世界です。
突然だがデビモンは今の生活に嫌気が差していた。
デビモンに、堕天使型デジモンに進化してからというもの、悪魔型や魔人型などのデジモンが数多く所属する闇の勢力に拉致され、来る日も来る日も天使型デジモン、聖獣型デジモン達が所属する光の勢力との終わりなき戦いに巻き込まれ、その戦いの中に身を投じる日々が続いてる。
ぶっちゃけもう戦いたくない。逃げたい。
だって天使って、聖獣って何だっけ?と思わず首を傾げてしまうレベルで相手のデジモン怖いし。
闇の勢力、ウイルス種のデジモン絶対殺すマンになった彼らほど恐ろしいものはない。
やる気ならぬ殺る気に満ち溢れた彼らは確実にこちらの息の根を止めるまで手を休めることはなく、たとえ戦場から逃げ出しても一度ターゲットとしてロックオンされたが最後その手で殺すまで執拗に追って来る。
しかも集団で。
前に追いかけ回された時は冗談じゃなく本気で死ぬかと思った。
というか1回ぐらいマジで死んだんじゃないのか?今ここにいる自分は2代目とか3代目とかで「次のデビモンはもっと上手くやれるでしょう」とか「おおデビモンよ死んでしまうとは情けない」とか言われて送り出されて来たんじゃないのか?と今でも思っている。
それぐらいあの天使という名の悪魔達は怖かった。
堕天使を怖がらせる天使って何なんだ一体。
逃げたいと思う理由は他にもある。
頼れる仲間は皆目が死んでる……じゃなくて、隙あらば蹴落とし合い、騙し合い、殺し合いが発生し、相手を引き摺り下ろして自分がその位置に収まってやろう、踏み台にしてより高みを目指してやろう……デビモンが属する闇の勢力、本来ならば仲間と呼べるはずのデジモン達はそんな物騒なことを考える奴らばかりなのである。
自分の部下達だって表向きは従順な態度を見せているけれど、僅かでも隙を見せれば嬉々として息の根を止めに来ようとする上に、敵諸共殺そうとする奴らばかりだ。
上司は上司で「オマエの手柄はオレのもの。オマエのものは全てオレのもの」とどこぞの暴君みたいなことを言い出してデビモンから宣言通り全て奪って行く上に都合が悪くなると捨て駒にしたり責任を全て押し付けて逃げようとしたりするし。
お陰で心休まる時がないというか、1秒だってこんな空間に居たくねぇ!とデビモンが思ってしまうのは仕方がないことだった。
仲間(という名の敵達)が集まる中でうっかり寝ようものなら、その瞬間永眠させられるだろう。
実際されかけた。
もう誰も信じられない。
デビモンが一体何をしたと言うんだ。
ただ堕天使型デジモンに進化しただけじゃないか。
ちょっと幼年期の頃に見たデビモンがかっこよくて自分もあんな風になりたいと夢を見ただけじゃないか。
堕天使型デジモンには、ウイルス種には夢を見る資格なんてないと言うのか。
存在しているだけで、生きているだけで罪だと言うのか。
デジ権すら与えられないと言うのか。
なんて酷い世界だ。
そもそも自分達は一体何のために光の勢力である彼らと戦っているのだろう。
偉大なるカリスマが親玉を務めているような、どこぞの悪の組織みたいな何か崇高な目的でもあるのだろうか。
ふと思い立った疑問を直属の上司へと尋ねた。
もし、素晴らしい目的があるのならば。
デビモンも諦めて、或いは納得して戦いに赴くことが出来るかもしれない。
そう思った彼の問いかけに上司は返した。
『あ?んなもんアイツらが気に食わねぇからに決まってんだろうが。つか無駄口叩いてる暇があったらさっさとオレの為に活躍して手柄を立てて来い』
気に食わない、そんな下らない理由の為に今まで命を賭けて戦っていたのか。
あまりにも阿呆らしすぎて怒りを通り越して呆れて果ててしまった。
そんなデビモンには目もくれず、いつものように上司は偉そうに命令を下して来た。
──よし、逃げよう。
上司の命令を聞きながら、デビモンはそう決意すると、光の勢力との戦いに赴くフリをして戦場から逃げ出した。
敵前逃亡はいつの時代も重罪である。
脱走兵は見つけ次第殺される定めである。
同族は他にもたくさんいるのだし、同じ部隊に所属している奴らもいる。
たかがデビモン一体居なくなった程度でそう騒がれることはないと思うのだが、万が一ということがある。
故に追っ手を掛けられぬよう死んだフリでもしようかと考えたのだが、相手はその辺の悪魔よりも悪魔のような天使や聖獣達である。
確実に息の根を止めたことを確認出来ない限りは攻撃の手を緩めないことで有名だ。
つまり、死んだフリなんぞしようものなら本当に殺される。
彼らに慈悲の2文字はない。
……おかしいな、天使や聖獣って優しくて慈悲深いものだったはずなのだが。
いや、もしかしたら闇の勢力だから容赦ないだけであってそれ以外のデジモンには優しいのかもしれない。
どっちにしろ堕天使型であるデビモンに与えられる優しさはないのだろうけど。
涙が出て来た。
とりあえず先のことは後で考えることにして、今は逃げることに専念しよう。
出来るだけ遠く、離れた場所に逃げるのだ。
大丈夫、デジタルワールドは広い。
逃げ続ければいつかは光の勢力と闇の勢力がぶつかり合わない、平和な土地に辿り着けるはずだ。
そう、デビモンが目指す理想郷に──
希望を胸に抱き、デビモンは旅立った。
──平和と安住の地を求めて闇の勢力から逃げ出してから2年後。
デビモンはかつて自身が住んでいた場所から遠く離れた、いや世界すら越えた先で辿り着いた小さな町の喫茶店にいた。
何故ここに来てしまったのかデビモンには理解出来ないが……世界を越えた所で力尽き、ツカイモンに退化して倒れた彼に手を差し伸べてくれたのが喫茶店のオーナーである人間の男性だった。
男性は何も聞かなかった。
ただ生クリームをたっぷりつけたパンケーキと紅茶をご馳走してくれて、行く宛がなければここに住めば良いと言ってくれた。
気付いたら知らない場所に居て、帰り道もこれからどこに行けば良いのかもわからなかった。
そのご好意に甘えることにし、デビモンだったツカイモンは喫茶店を新しい家、平和と安住の地として住み着くようになった。
とても小さな町なので訪れる客は地元の客ばかりであり、1日の来客数もそう多くはないが……店に来てくれる客は余所者であるツカイモンを邪険にせず優しく接してくれた。
皆ツカイモンとは違いオーナーのように人間の姿をしていたが、手伝いをする際悪魔の姿に戻っても気軽に声を掛けて笑顔を向けてくれる客達ばかりだった。
戦いに明け暮れ、天使や聖獣型デジモンに追いかけ回されていた頃からは想像出来ない心穏やかな日々を過ごしていた。
彼がこんな風に穏やかで平和な日常を過ごせるようになったのも空腹で倒れていたツカイモンを助けてくれ、そのまま住まわせてくれているオーナー達のお陰である。
この恩は働くことで返さなければ。
そう思って決意を新たにツカイモン、客からはツカちゃんと呼ばれている彼はデビモンへと進化する。
彼の仕事は客からの注文を取り、オーナーに伝えることとオーナーの作る料理を客の所へと運ぶことだ。
簡単なようだが意外と難しい、ここの客は優しい人達ばかりなのでうっかり注文を間違えてしまっても別に怒ったりしないけれど……それでもツカちゃんの失態はオーナーとこの店の評価に繋がる。
オーナーの為にも無様な姿は見せられない。
そう意気込みスタッフルームを出ると、今の時間帯は客が少なかったからか厨房から出ていたらしいオーナーが誰かと喋っているのが聞こえて来た。
「八津さん、お邪魔しまーす!」
「おや、リコちゃんじゃないか。ああ、きみも一緒だったんだね?いらっしゃい、いつものパンケーキで良いかな?」
「はい、構いません」
「ふふ、すっかりお気に入りだね〜」
声から察するに話し相手はどうやら若い少女が2人らしい、オーナーのパンケーキを御所望とは中々見る目のあるやつだ。
何故だか自分まで嬉しくなり、そうだろうそうだろう、オーナーの作るパンケーキは世界一美味いんだぞと得意げになりながらも逆に対応するべくホールへと出て。
「ぎゃーーーー!!」
オーナーと会話していた少女の隣に居た女性の天使──エンジェウーモンを見てツカちゃんは悲鳴を上げた。
「……本当に、俺を殺しに来た刺客とかではないんだな?」
「ええ。私はこちらの世界でもう10年ほど居ますから。向こうとこちらの世界の時の流れが同じかどうかはわかりませんが」
「そうか……」
あれからツカちゃんはエンジェウーモンを見て悲鳴を上げたこと、怯えている様子からただ事ではないと察したオーナーによりスタッフルームに移動しエンジェウーモンと共に向かい合い話し合っていた。
最初は光の勢力が自分を殺す為に世界を越えてまで追いかけて来たのかと怯えたものだが。
落ち着いてみればエンジェウーモンから殺気は感じなかったし彼女はただ穏やかに微笑みながらツカちゃんと向き合い、疑問にも全て答えてくれていた。
彼女の話を総括するとこうだ。
10年ほど前にこちらの世界へと迷い込み、少女に出会い。
何やら良くないモノが纏わり付いていた彼女を心配し、側で見守るうちにすっかり情が湧いてしまい離れ難くなり、そのまま彼女のパートナーとしてこちらの世界に居着いた。
そういうことらしい。
「ですから、私は貴方を倒しに来たわけではありません。ただ私のパートナーと共にパンケーキを食べに店を訪れたに過ぎません。理解、していただけましたか?」
「あ、ああ……アンタからは他の天使共から感じた殺意や敵意は感じないからな……」
優しく微笑むエンジェウーモンにツカちゃんは返す。
どうやら本当に殺しに来た訳ではないことがわかり、ホッとした。
世界を越えようとも自分に安息の地はないのかと思った。
ただ自分は戦いに疲れたから、争いとは無縁な場所で穏やかに暮らしていきたいだけなのに。
深くため息を吐く。
兎も角エンジェウーモンが自分の命を狙って来た刺客でないのなら良い、予想外のトラブルが発生してしまったが早く店の方に戻り、オーナーの手伝いをしなくては。
ツカちゃんが話し合いをしている間も店を閉める訳にはいかないのでオーナーは店に出ており、エンジェウーモンと共にいた少女もまたツカちゃんの代わりに手伝ってくれているのである。
この喫茶店には皆癒しを求め、落ち着ける場所を探して訪れるのだ。
休みに来た客に手伝わせるなど論外である。話し合いを終わらせて早々に少女と交代しなくては。
そう考えながらツカちゃんはエンジェウーモンを見て疑問を口にした。
「それで……気になっていたがパートナーというのは、なんだ?」
「簡単に言えば人間と行動を共にするデジモンのことを指しますね。デジモンと共に行動している人間のことも指しますが。あなたとここのオーナーは違うのですか?」
「……俺はただ拾われただけだからな。そのままここで世話になって店の手伝いをしているだけだ。今の説明なら俺もパートナーとやらになるのかもしれんが……というか、人間とパートナーになるデジモンって他にも居るのか……?」
「私が確認した限りでは2体ほど。どちらも私のパートナーのご学友でいらっしゃいますよ。まあ……うち1体は少々問題のある種族ですが、パートナーの方によく懐き言う事を聞いておられるので問題はないかと」
「な、なんだか怖いこと言われた気がするんだが??本当に大丈夫なんだな??」
まさか闇の勢力を見たら即襲い掛かるようなバーサーカー天使でも居るのか。
聞きたくはないけど聞いておかねば後で後悔するかもしれない。
ここまで来たら行けるところまで行ってやろう、覚悟を決めて確認するように問えばエンジェウーモンはさらりと告げた。
「ええ、大丈夫ですよ。ただ『彼女』はメギドラモンという種族なだけです」
「何も大丈夫じゃねぇじゃねえかああああああああああ!!!?」
絶叫した。
天使なんかよりもっとタチが悪かった。
なんだなんだとオーナーと少女が様子を見にくる気配を感じながら、ツカちゃんは頭を抱えてテーブルに突っ伏したのだった。
「頼むから俺を平和に暮らさせてくれよ……」
・登場人物
ツカちゃん。
ツカイモンでありデビモン。
この物語の主人公。
ツッコミ属性の苦労人な堕天使悪魔。
天使や聖獣達は怖いし仲間達は信じられないしで逃亡を図り、世界すら越えて誰も知らない土地でオーナーと優しい町の人達に囲まれながら平和な暮らしを始めた。
ら、なんか天使が現れ、更にやばい奴が居ると聞かされ平和な日常を脅かされつつある。
彼に平和な日常を送れる日は来るのか。
喫茶店ではウェイターとして働いている。
オーナー
本名は八津聖路(やつせいじ)。
ツカちゃんの働く喫茶店『デビルズカフェ』のオーナー。
行き倒れのツカちゃんを拾って喫茶店に住まわせた人。
店を訪れる人は皆客、誰も拒まないスタイル。
ツカちゃんがデジモンであることに驚かなかったのは後述のエンジェウーモンやらデジモンを連れた客も訪れるから。
エンジェウーモン
パートナーの少女とパンケーキを食べに来たただの客。
ツカちゃんをびびらせた張本人であり最後にしれっと爆弾を投下した犯人。
ツカちゃんが会った中では穏やかで落ち着いた優しい天使。
聞けば知ってることは教えてくれる。
甘いものが大好き。
少女
エンジェウーモンのパートナーの子。
本名は美濃莉奈子(みのうりなこ)。周りからはリコと呼ばれている。
メギドラモン
デジタルワールドではちょっとした有名人なデジモン。
エンジェウーモンの話によると少女、リコの学友のパートナーであるらしい。
よく懐き言う事を聞く為問題ないようだが……?