今回もふわっとした内容のデジモン小説です。

主役は勿論大好きなあの子です。





厄災を齎すと恐れられた竜がいた。


その身は紅く、

その瞳は黄色く、

一対の翼は燃える炎のようで、

下半身は蛇のように長い、


胸にハザードマークを宿した真紅の竜。


その竜が現れる場所、地獄の業火に包まれる。

その竜が吼えし時、胸が紅く光り、大地は砕け、生きとし生けるものは皆死に絶える。


名を呼ぶことすら恐ろしく、ただ邪竜と呼ばれし厄災の竜。



──いつしか名を忘れ去られた竜は、常に孤独であった。


愛するものは勿論のこと、理解し寄り添うものも居なかった。


近付けば、皆が恐れて離れていった。

触れれば、皆が耐えられず息絶えた。


竜は孤独であった。



ただ感情のままに暴れ、破壊して回った竜はいつからか孤独を嘆くようになった。


誰でも良い、誰か共に居て欲しいと願ったとしても。

暴れることをやめたとしても。

今まで竜のして来た所業が竜から皆を遠ざける。

竜の行いは遠き地にまで伝えられ、世界のどこへ行こうとも竜は恐れられる。


竜の孤独は癒えることがない。





それから、どれだけの月日が流れたのだろう?

たった1人でいい、ただ1人だけの理解者を求め世界中を彷徨う竜は行く先々で恐れられた。

伸ばした手は払われ、姿を見た途端に皆が逃げ出していく。


怯えた眼差しを一身に受けながら孤独の竜は探した。

己の理解者を。

己を愛してくれるものを。


長い長い旅の果て。

疲れ果てた竜は辿り着いた花畑で眠りに着く。

もう、疲れた。

世界中を旅して回っても、孤独の竜を理解してくれるものなど居なかったのだ。


認めざるを得なかった。

受け入れざるを得なかった。


これから先もずっと竜は孤独のまま生きていくのだろう。

愛するものも、理解してくれるものも得られないまま……皆に恐れられ、過去の自分の所業を悔いながら永劫にただ1人生き続けるのだ。


ならばいっそ、このまま永遠に眠ろう。


誰にも寄り添われることなく1人眠り続ける。

孤独の竜にはそれがお似合いだろう。



でも……もしも叶うならば、


たった1人でいい。

自分を愛し、寄り添ってくれるものが欲しい。


怯えた眼差しを向けられるのではなく、愛を向けられたかった。

伸ばした手を握り返して欲しかった。


誰かのぬくもり、あたたかさが、知りたかった。


叶えられることのない願い。

胸に抱きながら竜は深い深い眠りに着いた。









「ねぇ、こんな所で寝ていては風邪を引いてしまうわよ」


声が聞こえた。


初めはそれが自分に向けられたものだと、竜は気付かなかった。

だって竜は皆から恐れられる存在で、こんな風に声を掛けてくれるものなんていなかったから。

けれど。


「ちょっと、聞こえてるの?本当に風邪引いちゃうわよ!」


続く少し怒ったような声。

しかしそれは竜に不快感を表しているわけではなく、ただ心配しているようで。

優しいその言葉が信じられなくて、夢を見ているのではないかと思って。

中々目を開けられないでいると。


「ほら、起きて。この辺りは夜になるとすごく冷えるんだから」


ぺちぺち、と顔を叩かれる。

痛くはない、だが誰かに触れられた、その事実に驚いて。

たまらず目を開けると1人の人間がこちらを覗き込んでいた。


さらりと顔にかかるのは淡い色の金髪で、じっと見つめているのは水色の瞳。

そして簡素な白いワンピースを着た小柄な少女。

……竜が片手で捻り潰してしまえそうな、そんな少女が竜の上に乗っていた。

混乱するしかなかった。


「あ、やっと起きたのね。あなたって意外とお寝坊さんね」


竜の混乱など知らないらしい少女は目を覚ました竜を見下ろし、やれやれ、と呆れた表情を浮かべて肩を竦めていた。


「さっきも言ったけど、この辺は夜になるとすごく冷えて寒いの。だから寝るならこんな所じゃなくて、もっと暖かいところにした方がいいわ。あなただって風邪を引きたくないでしょう?」


竜を見ても怯えず、そう返してくる少女に竜はただ戸惑うばかりだった。

話しかけられるのは初めてのことだった。

心配されることも、姿を見ても逃げずに触れてくることも。


初めてのことばかりで混乱しっぱなしで黙りこくる竜に少女は不思議そうに首を傾げていたが、やがて何か思い当たったのか、また新たに言葉を投げ掛けてくる。


「もしかして、あなた……帰るところがないの?」


帰るところ。

どこへ行っても竜は怯えられるばかりだ。

受け入れてくれるものなんていない。

そういう意味では帰るところはないのかもしれない。

思わず項垂れる竜に、少女は優しく声をかけた。


「じゃあ、わたしのところに来る?暖かくはないけど、雨風くらいは凌げると思うわ」


そう言って少女は返事も聞かずに竜から降りると、竜の手を掴んだ。

突然のことに驚いて振り払おうとしたが、それをすれば少女を傷付けてしまうかもしれない。

折角近付いて来てくれたのに、怖がってもう近付いて来なくなるかもしれない。

それだけは嫌で、どうすればいいかわからないまま竜は手を引かれてついて行った。

案内してくれたのは、花畑から少し離れたところ、崖の上に建った大きな塔だった。

崖の下には町が広がっていた。


人間というのは弱い生き物だから群れて居なければ生きていけないと聞いていたのだが。

少女が連れていった塔からは気配は感じられなかった。

何故こんな離れたところに1人で居るのだろう?

疑問符を浮かべつつ、町と塔を交互に見比べている竜に気付いたのか、少女は苦笑しながら言った。


「わたしはあまり目が見えなくてね。町の人達のお世話になる訳にもいかないからこの塔で暮らしてるの」


目が見えない。

もしかして、竜を恐れなかったのもそれが理由なのだろうか。

目が見えていないから、竜のことがわからなくて、手を差し伸べてくれたのか?

竜の考えていることをなんとなく読み取ったのだろうか。


「全く見えてないわけじゃないわ、あなたの顔がはっきりとわかる訳ではないけれど」


そう言って少女はまた竜の顔を下から覗き込む。

伸ばした手が竜に触れて、少女は優しく笑った。


「ひとりぼっちで泣いている子を放ってはおけないでしょう?」


そのまま目元に指先が向かい、拭われた雫を見て、そこで初めて竜は自分が泣いていたことに気づいた。

涙で揺らぐ視界の中、少女は暖かい眼差しを竜に向け、笑っていた。


「ずっとここに居て良いよ。わたしも、小さい頃にお父さんとお母さんを亡くしてひとりなの。だから同居人が居てくれると嬉しいわ」


触れる手は暖かくて。

撫ぜる手は優しくて。

ただただ涙が零れ落ちた。




それから、竜は少女と共に塔で暮らした。

少女と花畑に行って花を摘んだり、少女を背中に乗せて空を飛んでみたり。

雨の日には塔の中で過ごし、雪の日には2人で寄り添って空を見上げた。

熱いシチューを飲み驚きのあまり炎を吐いてしまったこともあったが、少女はいつだって笑って竜の側にいた。


孤独だった竜は、もうどこにも居ない。





あとがき的な。


毎度お馴染みメギドラモンです。

デジタルハザードの影響か、感情のままに暴れ回った結果、皆に恐れられ離れていった孤独の竜。

気付けばひとりぼっちで側には誰も居なかった。

愛してくれる人、理解し寄り添ってくれる者を探して世界中を旅した竜が最後の最後に少女と出会い孤独ではなくなる……というお話。