ピンチを助けるのは物語のヒーローじゃなくて目付きの悪いトカゲでも良いじゃない。

そんなお話。

いつも通りのふわっとしたお話。

トカゲとドラゴンはイコールである。あとはわかるな??



「好きな人のタイプってなにー?」

「えっ、王子様系とか?」

「可愛い系も捨てがたい」

「やっぱシックスパックでしょ。ムキムキこそ正義」


夢見る乙女達の楽しげなやり取り。それは友人達のものであったが内容が内容なだけに会話に加わり難く、読みかけの本を手にこっそりとため息を吐いた。

ちなみにさっきからページは進んでいない。

読むのやめようかと考えていた所に丁度ぐるりと友人の一人の顔がこちらを向いた。

びっくりした。人の首ってそんなに回るのか。


「ねえねえ煉華はどういうヒトがいいのー?」

「えぇ……まだわかんないよ」

「いいからいいから。思い付くの、ない?」

……そうだなぁ」


どうあっても聞き出したいらしい。

短くもそれなりに付き合いがあるからわかる。これは適当にでも答えなければ解放してくれないやつである。

うーんと試行する。


「優しくてあたたかくて、寂しい時とか不安な時、いつも一緒に居てくれる人がいいかな」



なんて、話をした数日後の朝。


道端で出会ったのは運命の王子とか騎士とか、よくある転校生とかではなく。

ぐるぐるとお腹を鳴らして倒れている珍妙な赤い色のトカゲだった。

いやまあ、トカゲにしては結構大きいけど。

小学生の子供と同じくらいのトカゲって何なんだろう。

そんなことを考えていると目の前のトカゲが鳴いた。


『腹が減った』


……今人の言葉を喋らなかったかこのトカゲ。

そうかそうか最近のトカゲは人の言葉を喋るのか。知らなかったなー。

現実逃避しかけた意識はぐるるると鳴り止まない腹の音に引き戻された。


「あー……よかったらこれ食べる?」


無視するには遅すぎて、良心から差し出したお弁当は袋ごと掻っ攫われた。

おいおい、腹が減っているのはわかったけどお弁当はそれごと食うもんじゃないぞ。

美味しいのか尻尾をふりふりさせているのを見ているのは楽しいが、これ以上は学校に遅刻してしまう。

名残惜しくもトカゲに別れを告げて学校へと向かう。遅刻した。





「あれアンタ弁当は?」


「登校中に腹空かせたトカゲが居たからあげてきた」


箱ごとあげてしまったので手元にはない。帰ったらお母さんにどうしたのか問われるだろう。

トカゲにあげたと言ったら怒られるだろうか。

なんて、なけなしのお小遣いで買った焼きそばパンに齧り付きながら考える内に昼休みは過ぎて行った。


そして放課後になる頃には朝の出来事なんてすっかり忘れていて。

最近不審者が出るから気をつけるように、と教師の忠告を右から左に聞き流しつつ校門を出た。

いつもは一緒に帰る友人達は今日はそれぞれ部活だったり、この前のテストの事で呼び出されていたりと皆不在である。

一人で帰るのなんていつ以来だろうな。いつも誰かしら一緒に居たから気にした事もなかったけれど。


夕焼けが町を赤く染めていく中を一人歩いて帰る。

とある建物の前を横切った時、その建物から突如火の手が上がった。

非日常の始まり。非現実な光景。何も考えず導かれるように見てしまった燃える建物の中から現れたのは。

全身を黒い炎で燃え上がらせ、鋭い爪を持ったこの世の生き物には見えない存在。

ばちり、目が合った。


──激しくいやな予感!

咄嗟に鞄を投げつけて反対方向へ猛ダッシュ。

背後から響く恐ろしい唸り声には聞こえないフリをしてひたすら駆ける。


ちらり、と黒い炎が頬を掠めた。血の気が引く。


駆け出したは良いが家とは反対の方向だ。

いやそもそもあんなバケモン連れて家に帰るとかナシ。

商店街はちょうど夕方と言うことで人も多いはず。

なるべく、人の少ない所に逃げないと。


唸り声と共に聞こえる乱暴な足音、真夏かと疑う程の熱気が背後から迫り命の危機すら感じる中。

嫌になるくらい冷静に回る頭で考えて考えて、足を止めずにただひたすら走った。


ごめんなさいと謝りながらゴミ箱を蹴倒して、帰りも考えず滅茶苦茶な道を進んだ。


それでも追いかける怨嗟の唸り声は止まない。背中に迫る熱量は消えない。


いつしかすっかり日も暮れて、息も絶え絶えに辿り着いたのは取り壊し予定の廃ビルだった。

黄色と黒の縞模様でキープアウトと書かれたテープを潜って建物の中へ。


階段を駆け上がる。

まだしつこく追いかけて来る唸り声に足が震え、伝わる振動に転びそうになりながらも屋上に辿り着く。

一際大きな唸り声がしたかと思えば窓の外に炎を纏った黒い翼が見えた。

建物全体が炎に包まれる。強い衝撃と共に足場が崩壊する。


堕ちる。燃える。


瓦礫となり崩れていく建物の隙間から見えたのは闇夜と同化した黒い身体に明るい炎を纏わせた大きな怪鳥だった。


長い逃亡劇の末、私はここで終わるのか。


走馬灯か、数日前に友人達とした会話を思い出す。


ああ、こんな時。

ピンチを助けてくれるヒーローが居たなら良いのにな。なんて。


目を閉じる。



ーー


ーーーー


ーーーーーー?


恐れていたような衝撃はやって来ない。

痛みすら感じる間もなく死んだのか?

いやでも炎に焼かれるならそれはきっと凄く苦しいはずで。

うっすら目を開くと視界に飛び込んで来たのは。

あかいいろ。

赤?いいえ、もっともっと鮮やかないろ。

血のように濃くて、炎が燃えるようないろ。


けれど熱くない。

おかしいな、今までずっと熱かったのに。


それから、自分が何かを下敷きにしていることがわかって。

自分が上に乗っても潰れない、それなりの硬度と強度を持っていてけれど柔らかくてあたたかい。


そう、あたたかいのだ。熱くない。


助かったのだろうか。

それともここは天国?

わからないままに支えてくれる何かにもたれかかれば、どくどくと聞こえてくるのは遠い昔に聴いた音。

懐かしくて安心する音。

そう、それは生まれる命が告げる声なき声。ゆっくりとしたリズムを刻む鼓動の音。


あたたかさとその音に安心し、ぱたりと目を閉じかけて。


『怪我はないか』


まるで地の底から重く響くような、ずしりとのしかかって来るような低く重厚感のある唸り声がした。

目を開いて気付く。

なんとまあ目付きの悪い紅い色をした身体の大きなトカゲがこちらを覗き込んで居る事に。


どうやら彼が助けてくれたらしい。

ピンチの時に駆けつけてくれるとはなんかのヒーロー……にしては見た目が凶悪過ぎるな。

それにトカゲに知り合いは居ないのだけどと首を傾げた所で。


「あ、もしかして今朝助けた」


ふ、と思い浮かべたのは道端に倒れていた赤い色のトカゲ。

ひどくお腹を空かせていたようだったのでお弁当をあげたあのトカゲ。

あの時とは随分と容姿も大きさも違うけれど。

もしかしてと見ればそうだと言わんばかりに頷かれた。まじか。まじであのトカゲだったのか。


何気なく助けた生き物に今度は自分が困っている時に助けて貰うなんて、なんだか昔話みたいだ。

でも助かったのは事実だしと改めてトカゲと向き合った。


「ありがと、お陰で助かったよ。ええと」


『メギドラモンだ。とかげ、でも構わないが』


「え、ウソ。声に出てたの」




それが彼女と彼の出会いだった。


彼女は知らない。

彼がデジモンと呼ばれる生き物で、中でも恐れられる生き物だという事を。

そんな彼にこれから付き纏われ、日常とおさらばして非日常を過ごす羽目になる事を。



あとがき的な。


天条煉華(てんじょうれんか)

お弁当あげたごくふつーの女子高生。

困ったときに助けてくれ、いつも一緒に居てくれるような優しい人がタイプ。だが残念ながらピンチに来たのはトカゲだ。

これからトカゲに付き纏われる日々が続く。


ちなみに最初彼女を追いかけていたのはダークフレアリザモン。廃ビルに着いた時にヴォルケニックドラモンに進化した。でもトカゲが居るから大丈夫じゃないかな。


とかげ(メギドラモン)

道端で行き倒れていたところにお弁当を貰った。

その借りを返すために鶴の恩返しならぬトカゲの恩返しに来た。

お弁当の卵焼きが美味しかったのでまた食べたい。

普段は目付きの悪いギルモンの姿。

ギルモンの姿になれるメギドラモンは作者の作品では珍しいかもしれない。

だって普段からメギドラモンの姿で居て欲しいもの。進化前も好きだけど何となく。


メギドラモンの作品増えろー。メギドラモンは良いぞ。超カッコいいぞ。勿論デュークモンもギルモンの進化系列全部良い。

良い作品あったら教えて下さい。チョイ役でも良いから出てるのが読みたい。

フォロワーさんの作品は読みに行くので待ってて。


ちなみに短編なので続きはない。

続くとしても一話完結のオムニバス形式。長編大作はたぶんむり。