塾にいる、かの国にルーツを持つ男の子に

 「日本人って悪いんでしょ?」

と言われた。

 

 もしや、第二次世界大戦のこと?

 まだ低学年なのに。

 いや困った。

 

 内心焦りながら

 「どうして?」

と聞いてみた。

 

 すると

 「だって中国の真似ばっかりしてるもん。温水プールとか、ららぽーと(三井不動産のショッピングモール)みたいなお店とか、新幹線とか。全部全部中国が最初に造ったんだよ。それを勝手に真似したんだ。だから悪いんだよ」

と言う。

 

 ああ、よかった。

 あなたの国で教えられていることと歴史上の真実は違うんだと話すのは簡単だけれど、それは私の役割ではないし、まだ幼い子に理解させられる自信はない。

 そんな深刻なことじゃなくてよかったよ。

 

 「そうねえ、真似ねえ。多分全部中国の真似ではないかなあ。世界で最初の温水プールは二千年以上前のローマ帝国のものだったはずよ。日本の温水プールだって百年以上前にはあったし」

 「ららぽーとみたいなショッピングセンターは多分アメリカが始まりだよ。ららぽーとはハワイのを真似たみたいよ。そして先生が子どもの頃からあった。」 

 「新幹線ねえ。中国の高速列車はまだできて二十年経っていないんじゃない?日本の新幹線は六十年前に開業したから、どちらかと言えば逆に中国が真似したのかなあ。中国は外国から技術を買って速い列車を造ったの」

 

 スルーしてもよかったのだが、時間もあったので真面目に答えてしまった。

 その子は

 「へえそうなんだ?知らなかった。中国人が最初に造ったと思っていたよ」

と素直に感心していた。反論されるかと思ったのに。

 

 確かに現代の中国には新幹線どころかリニアモーターかも、ショッピングモールも、温水プールもある。小学生の子どもにとっては生まれた頃からあるものになる。だから、ずっとあったように考えるのも無理はない。けれど、私世代の中国人にとってはそうではないはずだ。

 それにしても、いったい誰が彼にそんなことを教えたのだろう?

 両親なのか、祖父母なのか。

 

 ちなみに彼は帰化しているらしい。中学受験を目標に塾にも来ている。ご両親はあまり日本語が話せないし、彼の日本語力も同程度の学力の日本人の子どもと比べると当然低い。普通に話しているようで、実は理解していなかったり、勘違いしていたりすることもある。


 親は何でも中国が優れていると信じ、日本語を覚える気があまりないのに。子どもは異国で苦労する。なんだかなあ、である。