周囲には家族の実態が分からないということは、私の家族を例にとってもよく分かる。
私の家族も周囲からは理想的なファミリーだと思われていた。というか、実際幾度も言われた。
習いごとで一緒のママたちにに、子どもたちの学校のママたちに、彼の会社の人たちに。
会社を経営する(コンサルティングファームでバリバリ働く)高学歴で知性あふれる父親、仕事をしつつも家庭を支え、聡明で美しい母親、スポーツも音楽も勉強もなんでもこなす賢く可愛い子どもたち……
(知性あふれるとか聡明で美しいとか書いていて恥ずかしいが)
父親が、モラハラであるどころか子どもをある種虐待していたなどと誰も夢にも思ったこともないだろう。
元夫は、子どもたちがごくごく幼いうちは可愛がった。けれど自我が芽生えてくると、自分の思い通りにならなければ高圧的な態度で迫り、時には怒鳴り、反論すれば手を上げさえした。
子どもの一番好きな習いごとも「殺人と同じくらい嫌いだ」と否定した。
私が彼の子どもへの態度を非難すれば怒り、罰と称して、生活費を減額した。
突然無視を始め、私が話しかけても返事もせず、ひと言も口をきかないということを数年にわたって続けた。私の掃除した部屋で私の洗った洋服を着て私の作ったごはんを食べながら。
「理想のファミリー」の実態である。
そう、そして。
挙句に、唐突に離婚を切り出し出ていった。
「親権はそっちでいいでしょ」
そう一言で済ませたくせにニ週間に一度は会いたいと言った。渋る子どものために交渉して三か月に一度にした。
自分から面会を望んだはずなのに子どもたちが五分でも待ち合わせに遅れると
「遅い。こっちは忙しいんだ」
というメールが腕時計の写真とともに送られて来た。
ある日面会から泣いて帰って来て以来、息子は面会を断固拒否するようになった。すると養育費を払わなくなった。
面会拒否を自分のせいだとは全く思わず、私がコントロールしているせいであり、自分を捨てた父親を恨んでいるのだというメールが来た。
再三の請求に応じず養育費の未払いが続いた。強制執行を決意した。
書類を整え、実際に強制執行に踏み切ると「そんなことをするならこちらも法的措置をとる」というメールが来た。「非があるのはそちらなのでご随意に」と返信した。
そのすぐ後、唐突に「支払いには応じるから強制執行は取り下げてほしい」と低姿勢のメールが来た。
結局無事に養育費は払い込まれた。
私はまだいい。戦える人間だったから。
けれど、そうでない人も大勢いる。逃げて隠れて怯えている人、トラウマになってしまっている人、戦いたくても手段のない人が大勢いるのだ。
それでも、幼い頃からの元夫の本人たちへの言動や私への言動で、子どもたちは傷付いている。
「自分以外の誰かのために生きたい」
「誰かを幸せにしたい、そのためなら自分は犠牲にできる」
子どもに対してそう思えない人が親権を持つ必要があるとは思えない。