「悪魔に魂を売り渡した」と言われたパガニーニ。

 彼の曲をもとにリストが書いた「ラ・カンパネラ」は大好きだし、彼の曲を主題にして書かれた曲は他もよく聞く。

 けれど、パガニーニ自身のことってほとんど知らない。それこそ、超絶技巧のバイオリニストで悪魔に魂を売り渡したと言われていたことくらいしか知らない。

 なんてこと!

 

 さて、そんなパガニーニを描いた「CROSS ROAD~悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ~」、ご縁があって観てきた。

 



 いや、いや面白かった。

 思った以上に歌が多く、パガニーニの曲もアレンジされていて。

 (欲を言えばもう少しバイオリンの曲が聴きたかったけれど)

 

 十字路に住む悪魔と契約し手に入れた才能。代償は命。百万回の演奏したら命は終わる。

 

 「自分に才能があることが分かるだけの才能がある」という設定のパガニーニ。

 全く才能がなければ、自分の限界なんて、天才ではないことなんて気付かない。

 けれどある程度の才能があるから、天才ではないことに気付いてしまう。自分が求めるレベルには自分は決して達することができないことを感じてしまう。(分かる。よく分かる)

 そんな心の隙を突くのが十字路の悪魔。

 

 十字路の悪魔、アムドゥスキアスは中川晃教さん。

 怪しい雰囲気がなんともうまい。歌声が心に入り込んできて、悪魔のささやきってこんなものかもしれないと思う。

 『ジャージーボーイズ』 でも思ったが、それにしてもこの人の高音は凄い。

 

 パガニーニは木内健人さん。

 弱くて尊大で音楽を愛するパガニーニにぴったりだった。

 アンジョルラス(『レ・ミゼラブル』)もカッコよかったのを思い出す。

 

 ジプシーの女の子アーシャは有紗瞳ちゃん。

 宝塚時代から、お芝居も歌も素敵だった。

 可愛らしく無邪気なアーシャがよかった。ジェンヌさんはなかなか歌唱力が外部のミュージカル俳優さんに追いつかないことが多いけれど、彼女は十分通用するね。

 カーテンコールのお辞儀が「娘役お辞儀」でないことが新鮮だった。

 

 パガニーニの執事、アルマンドは山寺宏一さん。

 さすがという感じだ。この方、なんて芸達者なんだろう。

 「ご主人さま」という言葉がシチュエーションによって全く違うように聞こえる。パガニーニをどうしようもないと思いつつ、愛しているのがよく分かる。

 

 エリザ・ボナパルトは元榮菜摘さん。

 初めての女優さん。美しかったし、孤独と尊大さと愛らしさとよく表現していた。よかった。

 

 パガニーニのお母さんは春野寿美礼さん。

 優しくただひたすらに息子を愛するお母さん。素敵だった。

 

 そして今回の再演の演出家さん。

 なんとこの舞台を観た翌日に会った友人の先輩なのだそうだ。 

 世間は狭い。

 

 クリエの公演は千秋楽を迎えてしまったけれど、まだ大阪公演(新歌舞伎座)と博多公演(博多座)がある。

 ぜひぜひ。