花組の『アルカンシェル』を観た。
久しぶりのSS席である。それもセンターブロックの最前列。
この場所での観劇はそれこそ三十年以上ぶりである。かなめさん(涼風真世さん)の『Puck』以来だ。
やはりここはドキドキする。
宝塚以外では最前列より3列目くらいのセンターの方が好きだ。最前列では見上げる感じになってしまうから。
けれど、宝塚においては銀橋前の最前列に勝る席はなかろう。
もっとも「観劇する」というより「ジェンヌさんたちを鑑賞する」になってしまいがちだけれど。
一幕最初のアンカンシェル劇場はフランス国旗と「Fluctuat nec mergitur」(たゆたえども沈まず)と書かれたパリ市の紋章が飾られている。
二幕では占領下。
アンカンシェル暗く、ハーケンクロイツのドイツ国旗が飾られている。ハーケンクロイツは撮り損なった。
こういう演出はさすが。
柚香光さん、素敵だった。
退団公演なのにショーの一幕もので寂しいと思っていたのだが、パリのミュージカルホールが舞台で天才ダンサーのマルセルという役柄、さまざまなダンスを見ることができて、まさに眼福だった。
すらりと伸びた手足、力強い眼差し、色っぽい流し目にウインク、
心配になる程細いのに、力強くダイナミックなダンスに心奪われる。
歩くだけでも自然と目が追いかけてしまう。
星風まどかちゃん。
分かってはいたが、信じられないほど可愛い。まるで舞い降りた天使。可憐な女の子なのにお役のときは大人びた雰囲気になるのはさすがである。
銀橋のまどかちゃんを「なんて可愛いんだろう」と真剣に熱心に見つめていたら目が合った(多分)。笑いかけてくれた(多分)。
雪組にいたひとこちゃん。ナチスの演劇担当の文化統制官でありながら、いや、だからこそ、か。文化と音楽を愛している。星空美咲ちゃんとの初々しいカップルぶりがなんだか可愛かった。
マルセルへの嫉妬からであろう、ナチスの協力者となるジョルジュの綺城ひかりさん、暗いオーラが。
『エリザベート』のルドルフの軍服のような衣装がお似合いの希波らいとくん。
帆純まひろさんや一之瀬航季くん侑輝大弥もかっこいい。
そして新人公演でマルセルを演じた天城れいんくんの爽やかさったら。
現在と当時を繋ぐ役目の聖乃あすかさん。それほど好きというわけではなかったのだが、銀橋で真近で観た笑顔が素敵だった。
そうそう少年イヴの湖春ひめ花ちゃんも可愛いかった。
花組って大柄な男役さんが多い印象だが、ロケットも迫力だった。
そしてとても花組らしい男役の群舞。『愛の讃歌』素晴らしかった。ひとこちゃんもすっかり花男である。
辛い時代を舞台にしているのに、全体としては明るく未来へ向かうような作品だったのが、柚香さんのご卒業を祝うようでよかった。
ヒットラーのパリ焦土化計画を食い止めようと戦ったレジスタンスたちの中にはミュージカルホールのダンサーたちもいたらしい。
ナチス占領下のパリで、必死に舞台を続けようとする団員たちが、歌劇団の団員たちと重なって胸が詰まった。
柚香さんの歌う
「力合わせ 歌声重ねる」
「焼けつく真夏も 凍てつく真冬も 怯まずに 風に向かい 帆を張って 行く手見据える」
「誇り持ち 誓い合おう たゆたえども 沈まず」
という「たゆたえども沈まず」の歌詞が心に迫ってくる。
宝塚の五組の中でも、いちばんコロナに翻弄されて来たのが、この花組だろう。
幾度となくあった公演中止。
先の見えない中、どれほどの思いで自分を律しお稽古を続けてきたのだろう?
バレエも歌舞伎もミュージカルもストレートプレイも、全ての舞台芸術が否定されたあの頃……
芸術は決して無用のものではないのに、そういう時だからこそ必要なものなのに。
柚香さんの退団公演。
どうかこの先、千秋楽まで無事に公演が続きますように。