幼稚舎で思い出すことをひとつ。

 元夫が転職して勤めていたベンチャーの社長は娘さんを幼稚舎に入れたがっていた。社長の娘さんは私の娘よりひとつ年上だった。

 娘が年少さんの頃、お家に子ども連れでお邪魔したとき、奥さまに

 「お嬢さんはどちらの幼児教室に通われているの?どちらを受験されるか決めている?」

と聞かれたのを覚えている。

 「幼児教室には入れていないんですよ。スイミングとバレエは習ってますけれど。、時々預けているベビールームでは英語やArtの時間があってそれは楽しみにしているみたいですが」

と答えたが、

 「幼稚舎につながりのある幼児教室に伝手があったら教えてほしいの」

とも言われた。

 私も元夫も東京で生まれ育ち、小学校受験中学校受験が当たり前の世界にいたからかもしれない。

 また、娘はその時既にひとりで絵本を楽しんで読めたし、文章も書けたからかもしれない。

 そして娘がはきはきと挨拶し、初対面の大人とでも自分の言葉で話すことができる子だったこともあったのかもしれない。

 

 そのときはもちろん黙っていたが、恐らくお嬢さんの幼稚舎合格は難しいだろうと感じた。言葉を選ばずに言えば、非常に裕福ではあるが社長夫妻もお嬢さんも東京の私立小学校の雰囲気には合わない、またバックグラウンドがそういう世界とは無縁のご家庭だったから。

 ご夫妻ともに地方ー大都市圏でさえないー出身であり、社長の出身大学はその地方の国立大だった。奥さまは短大を出てから零細企業の事務をしていた方だった。裕福になって必死にそういう世界に相応しく演出しようとしているご夫妻だった。

 それが悪いわけではない。裸一貫から会社を興し育て上げ、六本木ヒルズに住むまでになった才と実力は素晴らしいと思う。ただ、そういう自分たちのバックグラウンドにコンプレックスというか引目を感じているであろうことが見え隠れしていた。幼稚舎受験を考えたのも、そういう志向からだったのだろう。

 申し訳ないが、交友関係にある幼稚舎に合格をいただいた人や幼稚舎に毎年合格を出しているお教室や

 「幼稚舎志望なら橋渡しするわよ」

と言われた先生を紹介はできなかった。

 失礼を承知で有り体に言えば、胸を張って紹介できるような方たちではなかった。

 

 幼稚舎に限らず名門と言われる小学校の合格にはコネが必要だとよく言われる。もちろんそれだけではないが、あながち間違いとは言えないだろう。

 どの学校も優秀且つ校風に合う子どもが欲しいのだ。

 志望校が両親や祖父母の母校だというのは大きなアドバンテージだ。学校の創立者やその関係者に関わる血筋というのもまたひとつのアドバンテージだろう。

 ただ、それは単に関係者だから合格がいただけるという意味ではない。私立の小学校には独自の教育方針がある。その学校出身者ばかりの家庭にはその学校がほしいような子どもが自然と育っているというだけのことではないだろうか。

 

 

 結局、お嬢さんを幼稚舎に強いと言われるお教室に通わせたが残念な結果に終わった。

 たとえ入学できても、お付き合いは難しかったのではないかと思うし、お嬢さん自身は近くの公立小学校に楽しく通っていたから、それでよかったのだと思う。

 

 ただ最近は幼稚舎も学習院も色々なご家庭の方が増えたそうだ。

 小学校受験をするご家庭自体、二十年前には考えられなかったことだが、共働きのご家庭が半数を超えたということも聞いた。

 本当に色々変わってきているのだと思う。

 少子化が進んでいくこれからはいったいどうなっていくのだろうか。

 

 大分咲いてきたけれど、雨続きになりそうで……