やってしまった。



 とあるJRの駅から見下ろした線路である。

 小さなランチトートバッグに入れた私の水筒(アイスカフェオレ入り)は、バッグから飛び出し、キャッチしようとした私の手を滑りホームに落ち、ころころと転がってそのまま線路に転落した。

 

 あっ!

 ああ……


 私が悪い。

 読んでいた本をトートバッグに戻し、持ち手をきちんと持った……つもりが片側しか持っていなかったのだ。

 この日の水筒は表面がすべすべ、触ると気持ちがよいのだが、よく滑る。


 電車に乗ろうとしていたのだが、乗るのをやめた。

 一瞬、本当に一瞬このまま知らんふりして乗って行っちゃおうかな、と考えたが。

 いやいや駄目でしょう。


 水筒、どこまで転がったのだろう?

 電車の車輪に巻き込まれたりしないよね?


 幸いにも、近くには駅員さん。

 「すみません。水筒を線路に落としてしまって」

と話しかけると

 「ちょっとお待ちください」

とどこかに連絡をしてくれた。

 「お時間ありますか?間隔が詰まっていて、すぐには取れませんけれど大丈夫ですか?」

と聞かれ

 「大丈夫です」

と答えた。


 乗ろうとしていた電車が発車した。

 水筒は奥に行くこともなく、線路とホームの間にあった。

 不幸中の幸いである。


 「あれです」

と駅員さんに告げる。


 やがてあとふたり駅員さんがやって来た。ひとりがぴかぴかのベストを着て、マジックハンド(?)を持った。


 初めの駅員さんの言うとおり、すぐに次の電車が入って来る。その次も、その次も。

 仕方ない。

 

 「これが行ったら少し間が空くんで、そこで取ります」

 そう教えてくれた。


 電車が行き、マジックハンドを持った方ともうひとりがホームから身を乗り出した。

 マジックハンドで掴んだ私の水筒は、またまたつるりと滑り落ちそうになる。

 滑った水筒をもうひとりの方がキャッチしてくれた。

 「どうぞ」

と私の手に。


 「ありがとうございました。お忙しい時間に本当に申し訳ありませんでした」

 平謝りに謝った。

 ふたり組の駅員さんはどこかへ(持ち場?)へ戻っていった。


 ほんの少し凹んだ所があったが、許容範囲だ。

 電車を壊さなくて本当によかった。


 滑りやすいこの水筒にが、実はカバーが付属していた。

 今後は毎回ちゃんとカバーをしようと決心したのは言うまでもない。