さて、ドスドスとカウンターに向かった女性、こちらを睨みながらお店の人に大声で説明を始めた。

 うるさいから注意したのに話をやめない、自分を見て舌打ちしたり、笑ったり、暴言を吐いたと捲し立てる。

 こちらからはクレームを言う女性の姿しか見えないのだが、どうやら話し掛けられた店員さんの対応が気に入らなかったらしく

 「あなたじゃだめ、責任者を呼んで。警察呼んだっていいのよ。録音しているんだから」

と言い始めた。

 

 「あちゃあ。想像以上に刺激したらまずい人だった」

と妹と顔を見合わせたが、ここで下手に動くのも怖い。

 

 恐らく別の方、アルバイトではない正社員が対応し始めたようだ。

 彼女はもう1度同じ話を繰り返す、と思いきや話が何だか変わってきているのだ。

 「私以外にもうるさいと思っている人がいる。お店に入ったときに私のそばにいた人も『うるさい人がいて嫌だからこっちに座ろう』と言っていたから、あの人たちは立派な営業妨害ですよ」

 「私は店員さんが忙しいから代わりに注意してあげているのにどうして分からないの」

 「あの人たちは私が化粧をしていないのをバカにしたし、私の身体をバカにして笑った」

 「年下に文句をつけられたのが気に食わないと言って、舌打ちをした」

 おっと、話が膨らんできた。

 

 お店の人はただひたすら聞いているようだ。申し訳ない。

 と彼女が

 「どうして対処してくれないんですか、私が嘘を嘘をついているって言うの?」

と叫び、とうとうお店の人がこちらに出てきた。

 

 若い男性である。その人は私たちの横に膝を着くと

 「すみません、お客さま。あちらの方が『声がうるさいと注意したら暴言を吐かれた』と言っているのですけれど」

と困った顔で話し掛けてきた。

 「ええと、すみません。『声がうるさい。飲み終わったなら出て行け』と言われたので『まだ飲み終わっていないですし、出て行けとあなたが言うことではないと思いますよ』と言ってしまったんです。でも、暴言も舌打ちも違いますよ。あの人のことを話題にもしていませんし」

と小声で謝った。すると

 「そうですよね。うるさくもしてらっしゃらなかったし。どちらの言うことが理不尽か分かっているんですけれどね」

と、もう一度私たちに頭を下げてくれた。

 そして再び彼女のもとへ。

 

 いえいえ、すみませんと言わなければならないのは私たちの方だわ。