先日、デパートのラウンジでの出来ごと。

 友人のお義父さまである人を見掛けた。

 若い女性と一緒である。一瞬秘書さんかと思ったのだが、リクルートスーツのようなスーツで髪をひとつにきゅっと結んでいるし、雰囲気が学生っぽいので違うと気付いた。

 私がいる場所とは少し離れているが、話はなんとなく聞こえてしまう場所にふたりは座った。かなり大きな声で友人のお義父さまは話している。

 話の内容から、彼女は大学生であると分かった。友人のお子さんの新しいシッターさんか、そうでなければ家庭教師だろうという気がした。

 

 それならどうして、こんなところに一緒にいるのだろう?

 頼まれて買いものに付き添っているのだろうか?

 ???

 かなり疑問であったのだが、突然そんな疑問は吹き飛んでしまうような言葉が聞こえた。

 「ここはね、富裕層のための場所なんだ」

 「君はこういう場所に入ったのは初めてだろう?君のお父さんとでは来られないだろうからねえ。デパートにはこんな所が用意されているものなんだよ」

 「富裕層の来る場所、滅多にない機会なんだから、よく見ておきなさいよ」

 

 なんですって?

 なんて失礼なことを。

 その大学生のお家がどんな生活レベルかなんて、分からないではないか。

 

 私は勝手に憤っていたのだが、彼女の反応は大人だった。

 「そうですね。初めて来ました。こういうところがあるんですね」

と淡々と言うだけだった。

 

 それを聞いた友人のお義父さまは満足そうに話を続けていた。

 

 その友人の家は「小学校から私立に入れてしまうとあまりにも世間のことを知らなくなってしまって困る。だから小学校は公立、中学から私立に入れる」という考えのお家である。

 私が友人のお義父さまをしっかりと知っているのには理由があるのだが、ここにそれを書いてしまうのはちょっとやめておこうと思う。人はどこで繋がっているか、分からないから。

 

 それにしても「富裕層」という言葉、調査結果などで使われるのは知っているけれど、日常会話で使う人がいるとは。

 しかも自らを「富裕層」と言う人がいるとは。

 

 確かにそのお家は裕福なお家だ。

 資産の額などはもちろん知らないが、会社経営をしているだけでなく、都内にいくつも不動産を持っているお家だ。

 外商さんも出入りしているし、デパートにとって大事な顧客なのは事実だろう。

 

 けれど、申し訳ないけれど、自分の父がああだったら嫌だ。