「お父さんてさ、意外とビビリだから」

 郵便局まで公証役場からの書類を取りに行ったのはそれが理由なのかどうかは知らない。

 とにかく突然元夫からメールが来た。

 

 元夫、私が考えていたより法律の知識がないとしか思えない。

 それともそれほど「特別送達」のいう言葉の響きが恐ろしかったということなのか。

 どうやら「事実到来執行文(条件成就執行文)」というものを勘違いしているらしい。これが即ち「強制執行」だと思っているようなのだ。

 

 いやいや、公証役場にそんな権限はないから。

 差押えというのは裁判所からの差押命令が出て初めて出来るのだよ。

 そして、その命令は絶対であってそれこそ議論の余地などない。従うのみ、なのである。

 

 以下が夫のメールである。

 

「当方としては子供たちとの面会が定められた通りに実現できるようにして欲しいと考えています。それは単に面会に「行け」ということだけではなく、当方に関するそちらの主観を含んだ情報の提供を停止することを含みます。
 現状の養育費の減額は公正証書に定められた権利である面談が7月以前に3回以上に渡ってキャンセルされ、その後も実施されていないことによって生じているので、規定によって争おうと思えば争える状況にあると弁護士と確認をしております。」

 

 だいたいそこが違うって言っているのだ。

 私が何度となく伝えているのは次の2つである。

 主観を交えた情報(平たく言えば悪口、ということなのだろうね)など子どもたちに伝えていない。そもそも元夫のことなど話題にも上らない。

 『2度と会いたくない』という息子の面会拒否は公正証書に書かれている「正当な理由」に当たるから、減額の方が規定に反している。 

 

 さりげなく弁護士を出してくるあたり姑息だ。

 いや、姑息というより彼らしいかな、権威に頼る。

 公正証書のそのような記述自体「見たこともない」「どんな育ちの人が作ったのですか」「どれだけお金に汚いのですか」と言われるものだというのに。

 

 私の方も繰り返しになるが彼の文章をそのまま引用しての反論を返信。

 

「『それは単に面会に「行け」ということだけではなく、当方に関するそちらの主観を含んだ情報の提供を停止することを含み』

 あなたのことは話題にのぼりません。ですから主観を含んだ情報提供はありません。息子の個人の意見です。

『現状の養育費のの減額は公正証書に定められた権利である息子との面談が7月以前に3回以上に渡ってキャンセルされ、その後も実施されていないことによって生じているので、規定によって争おうと思えば争える状況にあると弁護士と確認』

 こちらは当方も確認しています。

 『面会拒否=正当な理由である』と100%認められると数人の弁護士にも、また裁判所の書記官にも確認が取れています。

ただし『元の旦那さんに訴訟を起こされる可能性がある』とも指摘されていますが、裁判になった場合、面会拒否をしている息子が15歳であることを考えると『面会拒否は正当な理由にあたる』とみなされると思ってよいと言われています。」

 

 すると、こう来た。

 かなり強気だ。

 それとも見せかけか?逆に怖がっているからこその強硬姿勢?

 

「とりあえず、そちらが強硬なスタンスを取り続けられている限りはこちらは交渉に入る前提条件すら揃っていません。
 差し押さえが適切な対応か弁護士にご相談されると良いと思います。
 取り下げるなら続きの議論をします。」

 

 「強硬なスタンス」って何よ。

 どこまでも自分が正しいと思っているのだ。

 公正証書というのはこと養育費に関しては、子どもの権利を守るものであって元夫の主張を通すためのものではないのだということ、理解しているのだろうか。

 

 「取り下げるなら」って…

 取り下げも何も彼が問題にしているのは公正証書であって(もちろん申立てはしているけれどね、元夫はそこまでは知らないはず)、公証役場がそれで差押えなど出来ないから。

 

 彼はどうやら私が弁護士に依頼していると考えているようだが、正式に依頼などしていないし、強制執行の申立ても自身でしている。それを教えてあげるほど親切ではないが。

 

 それにしても、ふむふむ。

 「特別送達」ごときでここまで動揺するのか。

 息子よ「お父さんは意外とビビリ」そうかもね。うん、お母さんは知っているよ。

 

 それにしても専門のこと以外、結構知らないんだな。知らないのに強気で押してくるわけか。

 だいたいこれ、以前のメールにあった「法的措置を取ります」同様、立派な脅迫だよ、いいのかしらね?

 

 私の返事は簡素だ。

「息子の面会拒否は正当な理由であって、養育費の減額は不当です。したがって面会の有無にかかわらず今後は養育費の全額振り込みを希望します」
 

 私は勘違いを訂正はしないし、強制執行を申し立てている事実にも触れていない。

 だからそう、差押え命令書は心の準備のないところにいきなり届くのだ。

 

 差し押さえ命令書が自分と会社宛に届いたらいったいどうなるのだろう。

 しかもどちらも、つまり2通「会社」に届くのだ。

 1通は債務者本人としての自分宛、もう1通は第三債務者である自分が代表取締役CEOである会社宛。

 

 怒り狂うのか、青ざめるのか。

 「債務不履行」それも養育費の不払いなんて事実が知られたら不名誉この上ないことだけは確かだ。

 彼のイメージダウンにはつながるだろう。

 それが上場したてである会社へのダメージになるのかどうか、どうでもいい話である。