さて気を取り直して。

 

 アメリカ生活。

 アパートメントも学校も決めた。

 一つ大変なことが残っていた。

 娘の予防接種である。

 

 もちろん、日本で定期接種に定められているものは受けて来ている。

 だが、アメリカでは日本では任意のものがほとんど定期接種とされているのだ。その上、それらの予防接種を受けていないと、学校に入れてくれない。入学前に予防接種の証明書を学校に提出しなくてはならないのだ。

 日本のように母子手帳の一部に記録するのではなく、アメリカには"Immunization Record"というのがある。それに、赤ちゃんの時からずっと予防接種を記録していく。

 

 ちなみに子どもたちのImmunization Record、まだ手元にあるのだが、これ、州ごとにデザインや色が違うため、載せてしまうとどこの州に住んでいたのかを公開してしまうことになる。という訳で、実物が見たい方はImmunization Recordで画像を検索して頂ければ、と思う。

 

 日本で受けていたものは、doctorで転記してもらった。

 そして、追加接種のスケジュールをたてた。

 娘が生まれた頃は今よりさらに日本の予防接種は種類が少なかった。

 だから、

 

 インフルエンザ菌b型(ヒブ)、

 肺炎球菌

 B型肝炎

 水痘

 MMR(麻疹・おたふくかぜ・風疹)

 B型肝炎

 ロタウィルス

 A型肝炎

 髄膜炎菌

 

 ざっとこれだけ足りていなかった。

 お陰で随分病気の名前を覚えたものだ。

   Hepatits(肝炎のことである)なんて、アメリカに行くまで知らなかった。

 

 これ、日本の感覚だととても終わらないという数だ。

 ところが、大丈夫なのである。

 一度に、2〜4種類受けられてしまうのだ。

 その上、接種の間隔も日本ほどあけなくてもよいとされている。

 

 一度に複数というと、どう打つのかと疑問に思うことだろう。

 簡単である。

 人間には両手両足があるのだ。

 それでOK。

 

 これは乳幼児でも一緒で、複数接種は当たり前のようだ。

 なんと言っても新生児にー文字通り生まれてすぐにーB型肝炎の予防接種をする国である。

 

 これは予防接種に対する認識の違いが大きい。

 

 日本人にとって、予防接種はあくまでも、接種する本人のためのものだ。

 病気にならないために受ける。

 だから、ちょっとした副反応でも問題になるし、副作用がおきでもしたら大変な騒ぎになる。毒性を弱めているとは言え、予防接種というのは、その病気の原因の物質を身体に取り込むということだ。つまり、何らかの反応は起きるのは仕方のないことのはずなのだが、特に日本人は受け入れられない。

 

 アメリカ人、またはアメリカ社会にとっての予防接種は、その病気をその人が所属する社会、集団で流行らせない為のものだ。もちろん、病気にならないために受けるというのは同じだ。でも、その目的は、本人が病気にならないこと以上に、病気にならないことによって周囲に移さないことなのだ。つまり、予防接種は個人の責任なのである。だから、予防接種をきちんと受けていないと学校という集団に入ることが出来ない。

 

 驚く人はいるかもしれない。でも、本来予防接種は、このアメリカの考え方にのっとるべきなのだ。予防接種の目的は、恐ろしい病気を流行らせないこと。したがって、予防接種で、一定数の人に副反応、さらには重篤な副作用が起きても仕方がない。副作用があった人には可哀想だが、副作用を恐れてその集団に病気が蔓延し、それが広がることの方が恐ろしい。

 

 一度に色々予防接種を受けなければならない娘は大変だったと思う。

 注射が平気な子で助かった。

 

 私は注射にしろ点滴にしろ、針が入っていくところを見るのが好きだ。

 娘も同じ。

 変な母娘である。