「江田局次長、WGIPですね。問題は」局長は顔を曇らせた。

 

「WGIP?」江田は一瞬、怪訝そうな表情をした。

 

「ウォーギルト インフォメーション プログラムですね。これが根本にあるんですね。」局長は言い直した。

 

「あ アメリカの日本人に対する洗脳プログラムですね。」江田は思い出したように言った。

 

「 そうです。これを最初は検閲、言論統制、 電通、マスコミを通して、 繰り返し、繰り返しすり込みました。 もちろん、憲法も書き換えられて 法律の根本的なところも書き換えられました。 憲法が変わればね、 その他の法律も変えられます。」局長は自嘲的に言った。

 

「日本人は自分がアメリカによって洗脳されていることに気づいていないですね。」江田は付け加えた。

 

「そうなんです。今でも、電通によって知らないうちに洗脳されているんです。江田局次長、わが国は、決して精神的にアメリカに敗北したわけではないのです。」局長は江田の顔をじっと見た。

 

「メディアですね。問題は。」江田は先回りして言った。

 

「そうです。GHQのWGIPについては研究書が出ています。」局長は江田の言葉に頷いた。

 

「で?」江田は話題を変えた。

 

「電通ですね。局次長さんにお願いしたいのは。」局長はゆっくりと言った。


「電通ですか?」江田はオウム返しに言った。

 

「電通を何とかしなければなりません。日本人固有の価値観を失ってはならないのです。」局長はきっぱりと言った。 
 
「 このWGIPが効いているからこそ、 日本はいまだに憲法を変えることができません。
 軍事に関するアレルギーを払拭できない。これがからくりなわけですね。」江田は局長に話を合わせた。

 

「この仕事に関しては、江田局次長が最適ではないかと・・・」局長はおもむろに言った。

 

「え?」江田は驚いたように局長の顔を見た。

 

 



 

 3カ月ぶりの出勤だった。江田が勤務している国家安全保障局は、永田町内閣府別館にあった。

首相官邸の裏に位置するこのビルは、民間ビルを政府が買い取った古い施設である。施設は政府の耐震基準を満たしていない。そのため、新庁舎が完成後、移転することになっている。

 

 国家安全保障局は国家安全保障局は、国家安全保障局長を筆頭に局次長2名、審議官3名、総勢67名の陣容で「総括・調整班」、「政策第1班」、「政策第2班」、「政策第3班」、「戦略企画班」、「情報班」に分かれている。

 

 江田はまだ30歳代にもかかわらず、局次長である。首相秘書官から国家安全保障局に移動になったせいで、首相秘書官と同等の局次長に任命されたのである。勿論、首相の強い要望によるものであることは言うまでもない。

 

 つまり、国家安全保障局の政務担当の局次長とでも言えばわかり易いのかもしれない。江田の主な仕事は国家安全保障局と内閣との調整である。

 

 「局長、長い間留守にして申し訳ありませんでした。お世話になりました。」江田が早速、局長に挨拶すると

 

 「御苦労様でございました。」局長は席を立って、深々と江田にお辞儀をした。局長は部下に対しても丁寧な態度を示すジェントルマンだった。

 

 「江田局次長さん、選挙で大変だったと思うんですが・・・」局長は言いにくそうに言った。

 

 「何か?」江田は咄嗟に言った。

 

 

 とうとう開票日がやって来た。江田が選挙事務所出向くと、既に大勢の支持者が集まっていた。各方部の選挙対策責任者が選挙情勢について報告している。

と、選挙対策委員長の高野衆議院議員の携帯が鳴った。高野衆議院議員の携帯電話は自民党の選挙本部直通の電話らしい。

 

「選挙結果は自民党本部でも予測できないらしい。」高野衆議院議員は緊張した面持ちで言った。

一瞬、ざわめきが起こった。

 

 選挙対策本部の幹部全員で選挙事務所の神棚に向かって必勝祈願。

 

  午後8時頃から、テレビで選挙開票速報が始まった。出だしは山城法務大臣がリード。その後一進一退である。なかなかの激戦だ。午後10時近くになって、「尼子さん当選確実です。まだ投票率80%の段階で、尼子さん地盤の郡山市の開票が進んでいないためです。」NHKのアナウンサーが緊張した面持ちで言った。

 

「え。本当?山城法務大臣がリードしていたのに。」選挙事務所に集まっていた支援者から驚きの声が上がった。

 

江田もしばらくの間は、山城法務大臣敗北の報を受け入れることができずにいた。江田の人生における初めての挫折だった。

 

しばらくして、江田の選挙専用携帯電話がなった。江田が携帯電話を耳に当てると

 

「山城さん50万票は凄いな。共産党の9万票がなければ、当選だった。」中村自民党幹事長代理の声が携帯電話から聞こえた。

 

「すいません。力不足で・・」江田は咄嗟に言った。

 

「いや、よく頑張ったと思う。ご苦労さん。」中村幹事長代理の江田の労をねぎらうような優しい声が妙に江田の心の中に響いた。

 

「ああ 終わったな。」江田は心の中で呟いた。と、江田の目に涙が溢れてきた。